スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「渦流の国の少女・ヒトノカタチ編」 第一部「カルネアデス・スパイラル」4

陽子に付いて小奇麗な街並みを抜けると、同じコミュ内とは思えないほど雑然とした路地に出た。路地の両側には上と横方向に隙間無く建て増しが繰り返された奇怪な建物が路の遠く先まで続き、両側の壁に圧迫されて路はより狭くなり、見上げればその道幅をなぞるかのようにかすかに空が見えた。当然、陽はあまり入らず、薄暗かった。
ここがこのコミュ元々の姿だとは思ったが、人気は無いものの、まだ生活感は感じられたから、完全にうち捨てられた廃墟とも思えなかった。

慣れているのか、右左と狭い路地をするすると抜けていく陽子に付いていくのがやっとの元素子だったが、

「ここよ。入って」

ようやく目的地らしき場所にたどり着いた時には元素子は肩で息をしていた。
「ごめん、そこ閉めといてね」
「え、あ、はい」
重い分厚い扉を閉めると、屋内はさらに暗かった。

陽子がある部屋に入り、元素子も入ると前にいた陽子が闇に溶けこんで消えてしまうほどさらに暗く、元素子は警戒心からそこで足を止めた。

陽子が部屋のデスクライトを点けると、うっすらと陽子の姿が見え、その弱い光の端に奇妙な装置らしきものの一部があるのがおぼろげに見えた。

「暗くてごめん。でも、ここはあまり光を入れてはいけないの」
元素子は何も答えなかった。すでにフィギュアの警戒モードを作動させていた。スカラの造った新しい元素子のフィギュアは瞬時に反応してくれた。暗がりに素早く目も慣れ、部屋いっぱいに実験器具のようなものが張り巡らされているのが分かった。その中心に、大きな球体のようなものが鎮座していた。

「生成中は渦流魂以外の光を入れてはいけないの」
生成、生成って?元素子は陽子がそれを説明する前に、この装置が何の目的を成すものなのか推測しようとして、自分のあらゆる記憶を辿ってみた。スカラの工房にあった設備とも違う、そして、かつて自分と家族のいたコミュの地下にあったフィギュアの工場とも違う、いかがわしさを感じた。

「ここがゆっくりと滅んでいくことも、新しいフィギュアが手に入らないことも修理も出来ないことも言ったでしょう。それは街の人たちを見てあなたも分かったはずよ」
ブースト0.5、元素子は口に出さず心の中で呟いた。ブースターはちゃんと作動してくれて、彼女の周りに渦流のシールドを張った。陽子には見えないはずだった。

「なら、」と陽子が言いかけたと同時に元素子はその先の言葉が分かった。
渦流魂の生成だ。あるいは渦流魂のままのヒトを長生きさせる何か、それをここで陽子は作り出そうとしている。身体がいずれなくなってしまうのであれば、住人たちを延命させるためには目的はそれしかない。問題はこんなチャチな装置でそんなことが出来るのかどうかだった。

「チャチなんて、言って欲しくないなあ、確かに心もとないけど、成功例はないわけじゃない」
今このヒトは自分の心を読んだ。短い人生ながら過酷な日々を送り、それなりの処世術を身に付けた元素子には、このいかがわしさの充満した空間で何が起こっても不思議じゃないと身構えていたから、驚きはしなかった。

「凄いのね、それはあなたの渦流魂の力のおかげかしら、ますます期待しちゃう」
陽子は笑顔でそう言った。元素子の両腕に渦流の流れが集中し熱を帯び始めていた。防御モードをすっとばして、攻撃モードに入りつつあった。その段階で初めて元素子は陽子に向けて口を開き、言った。

「残念だけど、あたしの渦流魂は渡せないな」

陽子に対抗して、笑顔を作ることも忘れなかった。

「別にあなたの命を使うわけじゃない。あなたの中には、あなただけでなく三つもの渦流魂がある。それを使わせてほしいのよ」

「あたしの家族です、それも渡せない」
今度は笑顔で言えなかった。このヒトは自分の中に家族の渦流魂があることも見通してる。そのことが元素子を躊躇させた。

「確かに生きている。でも意識はない。再びフィギュアに移しても生き返るわけじゃない。知ってるでしょう、それくらいのことは」
一方で陽子は笑顔を崩さない。

「あなたの家族はこのコミュを救えるかもしれない。それは素晴らしいことではなくて?」
その確証はどこにある?何故そんなに自信を持って言える?そんな疑問よりも先に、
「渡せない!」

素直な気持ちが声として出た。

陽子が元素子に向けて手を伸ばしてきた。感情を揺さぶられた元素子は危険を感じて、
「ブースト2!物理障壁!」
叫んだ。
元素子の目の前に例によって渦流の粒子が光を放って現れ、合体融合して擬似的な壁を作った。そして間髪入れずに、

「3!爆散!」
出来上がった壁がすぐさまさらなる閃光と衝撃波を発して散った。

それを目くらましにして、元素子は部屋から駆け出した。
爆散時の光の中、陽子が顔を手で覆いながら尻餅をついて倒れたのが見えて、相手がシールドの類で防御しなかったのを疑問に思いつつ、出口に向かって廊下を走った。
入ったときと同じ分厚い扉を開けると、その前にあの少年がいた。

「こっち、付いてきて!」
少年はそう言い放って先に駆け出していた。
「後ろ向かないで、走って!」
そう言われて元素子は後ろを振り向いてしまった。陽子が歩いて近づいてくるのが見えた。いつのまに。ツインテールが不気味に揺れていた。
元素子は思わず少年の後を追った。
これで多少は引き離したはずだと思い、また振り向いた。
驚いたことに、相手は歩いているはずなのに、じわじわと距離を縮めてきた。
「どうして!」
「だから後ろ向くなって!」
このとき元素子が冷静ならば、陽子は歩いているのではなく後ろに手を組んで地面スレスレを浮いて滑走しているのが見えたはずだった。
だがあまりの恐怖に、それに気付かなかった。たとえ気付いたところで、恐怖は変わらなかっただろう。

少年は子供とは思えない力で元素子を左側の曲がり角に引き込んだ。
その路の先は行き止まりだったのだが、陽子がたどり着いたときには二人の姿はなかった。

陽子は首をかしげつつ、余裕の表情は崩さず、踊るように回って宙を浮いたまま、ツインテールを揺らし、もとの路を戻っていった。
スポンサーサイト

テーマ : 創作・オリジナル
ジャンル : アニメ・コミック

プロフィール

tobofu

Author:tobofu
http://d.hatena.ne.jp/tobofu/
でアニメ感想系まがいのことをやっていますが、こちらはオリジナル創作漫画、小説の発表用のブログです(時間がないときや事情によってはアイデア、プロットレベルのものを提示するのみ、になってしまうかもしれません)。
その他総合的なプロフィールはhttp://www.geocities.jp/tobofu/
参照。

最新記事
カレンダー
05 | 2010/06 | 07
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 - - -
Twitter(創作用)
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。