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「渦流の国の少女・ヒトノカタチ編」 第一部「カルネアデス・スパイラル」5

元素子はまったくの暗闇の中に突き落とされたと思った瞬間、ドスンとベッドの上に落ち、体が跳ねた。

最初に寝かされていた部屋だった。
確かあの少年といっしょだったはずだと右を向くと、その当の少年が部屋のドアの前で、右手の人差し指で空を切り、ドアと同じ形の縦の長方形を作っていた。するとドアが無くなりただの壁になった。

「凄い、渦流でそんなことも出来るの?」
左を向くと、窓も無くなっていた。
「仕上げ」

少年はそう言うと今度は右腕を上げて丸く空を切った。切ったところに光の輪が出来てそれをつかむと両手で引き伸ばし、大きな輪にしてベッドの上の元素子をくぐらせて置いた。光の輪は宙を浮いたままだ。少年は部屋の隅のテーブルに寄せてあったイスを引き寄せ、光の輪の下に置き、輪をくぐるようにイスに座った。

「さあ、これでひと安心だね」
「だいたい自分がどういう状況に置かれているか、わかっているよね?」

少年は声質はそのままで大人びた聞き方をした。
この少年も普通の存在ではないことは明らかだった。
「あなたもあたしの渦流魂が欲しいんですか」
元素子は緊張を解かず、言った。自分の周りで分けのわからない展開が次々と起こっても、結局のところ原因はそこにしかない、と感じた。

「君はよく好かれるようだね、いろんなヒトやものから。いい意味でも、悪い意味でも」
「…はあ」
元素子は緊張を崩さずにため息をついた。そんなことは分かりきっている。

「一時的にこの部屋のドアも窓も消しておいた。ヨーコがここを嗅ぎつけたとしても入ってくることは出来ない、それに」

少年は自分と元素子を取り囲む光の輪に目を降ろした。
「このフィールド内にいるかぎり、彼女は君の心は読めない。だから、安心していい。少しは緊張を解きなさい。疲れるだろう」
少年は子供に諭すような言い方をした。

「…はあ」
元素子は二度目のため息をして、ブーストかけっぱなしにしていることに気付いて、停止させた。渦流魂がフィギュアを支えきれなさそうだったので、光の輪に入ったまま、ベッドのそばの壁に寄りかかった。

「僕は君の渦流魂が好きだ。素晴らしい輝きだ。それは君単独の渦流魂の力ではなくて家族の渦流魂もいっしょにいるからだよね」

元素子は次の言葉を待った。
「でも、いや、だからこそ奪おうとは思わない。むしろ謝らなければいけないんだ」
「ヨーコの渦流魂はね、彼女の父親のヒトと僕らが人工的に練成した渦流魂なんだよ」

その少年の言葉と、元素子が陽子に感じたいかがわしさと不自然さが合致した。

「君は本当に理解が早い。ヨーコの言う通り君独特の渦流魂の力かもしれないね」

少年は元素子の心を読んで言った。
「そうか、だから、あのヒトも心が読めるんですね。ああ、そうか、そういうことなんだ」

「たぶん正解だ。僕らの技術を使ったから、ヨーコの渦流魂は僕らの能力の一部を引き継いでいる。ただ、」
「まがい物の渦流魂だから、使える力は限られてる。そして、あなたは他の星のヒトですね?」
「その通り。君たちとは別の星国の渦流魂のヒトだ。多少の違いはあるがね、この星のフィギュアを使うことができた。それだけ君たちのフィギュアの汎用性には驚くばかりだ」

元素子は自分たち家族が元々住んでいたコミュの地下にあったフィギュアの工場を父親に見せられた時、父親が言った言葉を思い出していた。
“ここはね、大きな厄災から魂だけは守ろうとした太古の人間たちの知恵が作り出した場所なんだよ”

父親が真実を語っていたのか、父親なりの解釈なのか、願望なのか、それはもう確かめようが無い。太古の人間たちによって作られたとされているフィギュア製造の技術は、この星に住み着いた異星人たちの末裔の造形師たちに受け継がれているようだった。

「その過去の厄災についても、詳しいことは君たちには話せないんだ。星々の協定があってね、まあ、表向きのものなんだけれども、あまり深入りすると罰せられてしまう。いや、もう罰に値するだけの深入りをしてしまったのかもしれない。僕らの星では許されても、この星では許されない一線を越えてしまったようだからね。だから、僕たちはもうここから去らなければならない」

「待ってください、じゃ、このコミュのヒトたちはどうなるんですか?」
「心配することはない。ここの住人はね、みんな僕たちの仲間だから」
「えっ」

「ここにいた元々のヒトはもうほとんどいない。君が街で見た消え入りそうな渦流魂が最期のヒトたちだ。その彼らも今頃は…ね」
「陽子はそのこと知っていたんですか? ああ、知っていたらあんなことするわけがないか…」
「問題はあの子をどうするかだけなんだ。まがい物とはいえ僕らの子供だからね。根はいい子なんだよ。すぐうそをつく、ずるいし、やることはせこいけど(笑)」

まるで子供のいたずらを微笑ましく見守るような笑みを見せて少年は言った。
元素子は少年の言葉と態度から、その気持ちを素直に受け取った。

彼らは彼らで、このコミュを救おうとしたのだ。
でも結局、どうにもならなかった。

「太古のこの星の人間たちからすれば、君たちの存在は彼らの言う『あの世』の魂と呼べるかもしれない。しかしどんなに不自由な姿でも君たちは今を生きている。いまここが君たちの『現世』だ。その意味では、ヨーコがこの世界の『死人(しびと)』とも言えるんだ。だから、『端末』内に溜め込まれた渦流魂の残留思念と会話できたりする」

「君は強くなりたいと思ってるね。それは悪いことじゃないが、ただ戦闘力がアップすることだけが強くなることじゃない。君には君にしか出来ないことがあるはずだ。そこでお願いなんだが」

と、そのときその星ビト(少年)はドアがあった壁の方を振り向いた。
元素子にもその意味が分かった。
壁の向こう側に陽子が来ているのだ。

「あの子を助けてほしいんだ。あの子はいっしょに僕らの星国に連れてはいけないからね。これはお願いだから、結果がどうなってもかまわない。僕らはもう力は貸せないから君の力だけでやるしかない。もちろん拒否してもかまわない」

元素子と星ビトを囲む光の輪が消えかけていた。
気がつくと部屋の窓が再び現れていた。

「やります、なんとか頑張ってみます」
拒否するわけがなかった。

「そうか、ありがとう」
そう言うと少年のフィギュアから星ビトの渦流魂が浮き上がってきた。

「また、会えますか?」
「君が渦流魂の輝きを失わなければね。縁が僕を君のところに運んでくれるだろう」

なんて恥ずかしいことを言うんだろうと感じながら、元素子は意識せず笑顔で、
「さよなら、星ビトさん」
と言った。

窓の外を見ると無数の光の魂が天に向けて、ゆっくりと昇っていた。少年の中にいた星ビトの渦流魂も部屋の天井をすり抜けて消えた。

魂の抜けた少年のフィギュアが崩れるように倒れると同時に、部屋のドアが開いて、陽子が飛び出してきた。

陽子は窓の外の光景に驚いていた。
「なんなの?何が起こっているのよ!」

元素子は陽子の後姿を見つつ、これからが正念場だと思った。
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テーマ : 創作・オリジナル
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http://d.hatena.ne.jp/tobofu/
でアニメ感想系まがいのことをやっていますが、こちらはオリジナル創作漫画、小説の発表用のブログです(時間がないときや事情によってはアイデア、プロットレベルのものを提示するのみ、になってしまうかもしれません)。
その他総合的なプロフィールはhttp://www.geocities.jp/tobofu/
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