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「ヒタマ」エピローグ

翌々日、美緒は編集部を訪れ、編集長のゆかりに「ヒタマ」と題した原稿の束を手渡した。

ゆかりとははっきりと約束したわけではなかったが、高校を卒業したばかりの美緒が初めて編集部にやみくもに持ち込んだ文章の決着を、いつかつけなければならなかった。

この約10年、何度となく、それとなく、ゆかりからせかされてきたからだ。

かな恵も同席したが、もちろん、三つの地球のこと、元素子のことは口にしなかった。

正直に何もかも話したとして、ゆかりだったら信じるかもしれない。

しかし、若くして死んだ美緒の弟が書いた、形見となった未熟な物語を何とか理解したい、そのために小説の勉強をしたくて、あのとき編集部に頼ったのだ、と説明した。

そして、ようやく今になって、自分なりに整理することができ、形になったのがこの原稿であり、納得がいくまでは、何も言えなかったのだと、美緒はゆかりに詫びた。

それは美緒の物語、という一面だけ見れば、あながち嘘ではなかった。


ゆかりは原稿を一読すると、

「これ、いいじゃない、うちに載せない?」
と、かな恵と同じ反応をした。

「商売のために書いたものじゃないから、駄目だそうですよ」

かな恵は残念そうに言ったが、

「駄目です」

美緒ははっきりとゆかりの目を見据えて言い切った。

「え~、そんな~。もったいないよ~」

ゆかりは、とても40代の大人、編集長の役職にある人間とは思えないような甘えた声を出した。



それから約一ヶ月。

美緒はデビュー当時から続いている、ファンタジーものの書き下ろし文庫新刊の原稿を書き上げ、メールで全部送り終えたところだった。

4月半ば。

たまに夏日となるような日もあって、 春の空気も終わりかけていた。
徹夜明けの昼下がり、窓の外、快晴の空を美緒はぼんやりと眺めていた。

あの子、うまくいったんだろうか。
あれから一ヶ月だしな…。まだ早いか…。

仕事関係では、ライトノベル業界は爛熟期に入って飽和状態であり、出版業界自体が不況で揺れ動いていることもあってか、美緒の作品の文庫レーベル、レーベル小説誌も生き残りに必死だった。

新たにラノベレーベルよりもちょっとだけ年齢層の高い読者を想定した、新しい文庫レーベルも創刊されたが、美緒の作品はその内容の性格から、逆にすでにあった児童書レーベルの方でシリーズの最初の数巻が体裁を変えて出版されたりした。

その他、電子書籍化の動きもあったが、まだはっきり話が進んではいない。

小説の売り上げもヒットとまでは行かないが、落ち込むこともなく、相変わらず安定していた。とはいえ、職業作家に徹していた美緒はその状態にあぐらをかいていていいのか、という懸念も出てくる。

やっぱり、新作か…。

と漠然と考えつつ、一方であまりに長くルーチンワーク的に小説を書いてきたことで、新しいもの、それもちゃんと商売になるものが書けるのか、不安が頭の中でくすぶり始めていた。

そんなわけで、ここ最近、元素子のことがやたら気になるようになっていたのだ。

逃避である。自分でも自覚している。


マナーモードにしてあったケータイが着信でデスクの上で振動した。

確認すると、佐藤かな恵の名前があった。音声着信だった。

「先生ですか? 原稿ありがとうございます。確認しました。で、さっそくなんですけど、打ち合わせをしたいんですが」

「打ち合わせ? 何で?」

美緒は嫌な予感がした。

「新作の話ならまだ出来ないわよ?」

美緒はよく分からないが、とりあえず先手を打った。

「いや、小説じゃなくて、アニメの話が来ててですね」

「また、アニメ化するの? 前やって、上手く行かなかったじゃない。原作は売れてくれて私は良かったけれど」

「あの原作シリーズじゃなくて、オリジナルでって話なんですよ」

「は?」

「あの原作だと、長すぎて短い期間のアニメシリーズでは十分に生かせないらしくて。なら、先生と一からオリジナルで何か出来ないかって、話らしいんです」

「で、オリジナル? 無謀じゃないの? 何考えてるの、このご時世に」

商売優先で物事を考える美緒には当然の感想だった。

「そこはまだ詳しい話は聞いてないんで、打ち合わせの時にアニメのプロデューサーの方にですね」

「ちょ、待っ」

「とにかく、打ち合わせの日取りなんですけどね」

「待て待て待て待て」

「…何ですか」

「あたし、アニメ制作のこと何も知らないのよ? そもそもメディアが違うんだから、小説とは。だから前のはアニメのスタッフに全部お任せでって、ことになったわけで…」

「でも向こうは先生をご指名なんですから、ここは乗ってみましょうよ。新作のヒントになるかもしれないし。ああ、そうだ、オリジナルなんだから、新作書くのと同じじゃないですか」

「…そう簡単に言うけどね。ネタが」

「ネタならあるじゃないですか」

そう来たか、はじめからそういう狙いなのか。

「だから、あれは表に出せないって言ったでしょう!」

「あれをそのままやるわけじゃなくて、あくまでストーリー原案ということで」

「…まあ、原案、くらいなら。でもコケてもあたしの責任じゃないからね」

「いっそのこと、原案だけじゃなくて脚本書いちゃいましょうか! 全話脚本とか!」

「待て待て待て待て待て、待ちなさい佐藤かな恵さん」

「上手くいったら、ノベライズとか!」

完全にかな恵は調子に乗っていた。

「あんたあたしを殺す気か!」

「で、最短でいつが空いてます?」



美緒の関わるオリジナルアニメが実現したのかどうか、そこでまた一悶着あるのだが、

それはまた、別の物語。




「ヒタマ」終わり。

テーマ : 創作・オリジナル
ジャンル : アニメ・コミック

プロフィール

tobofu

Author:tobofu
http://d.hatena.ne.jp/tobofu/
でアニメ感想系まがいのことをやっていますが、こちらはオリジナル創作漫画、小説の発表用のブログです(時間がないときや事情によってはアイデア、プロットレベルのものを提示するのみ、になってしまうかもしれません)。
その他総合的なプロフィールはhttp://www.geocities.jp/tobofu/
参照。

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