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「渦流の国の少女・ 幼年期の終りという名の傲慢」(2)

フィギュアという身体を得た渦流魂のヒトの社会で、学校という制度が出来たのはそれほど古いことではない。
そもそも子供の教育は親の役目であり、親無しの子も珍しくはなかったから、共同体の大人、年長者の役目でもあった。もちろん他の星国の者も共同体の成員としていれば彼らも例外ではない。

そして寺子屋のような私塾が組織され、やがて対端末群防御のための体制が整えば、戦闘員を中心とした労働力育成のための職業訓練校へと発展した。

今でも、ドーム・コミュの一般的な学校といえば職業訓練校のことを指した。

職業訓練校、義務教育課程以後の、ある程度のモラトリアムが許された総合校があるのはドーム・コミュ・スラタリアだけであり、職業訓練校とは違い、はっきりと明言されてはいなかったが、ドーム・コミュの行政にいずれ就く者を育成するための学校だった。コミュ社会全体から言えば、つまりはエリート校である。
その目的が分かりやすく見えるのは、ドーム・コミュ運営委員会の実質の下部組織である運営生徒会の存在があったからで、生徒会のメンバーは在学中からすでにコミュの行政の仕事に関わっていたからだった。

その生徒会の一員であるフェイクス・オリジの妹、トウナ・オリジは幼少時からフィギュア造型師に憧れていて、将来はその職に就きたいと考えていた。
トウナはまだ義務教育課程の身だったが、ある星国の者が主催しているフィギュア造型のワークショップにもあしげく通っていて、毎日が忙しい。
おかげで親無しのフェイクス、トウナの二人の兄妹のうち、主にフェイクスが家事仕事を担当するはめになった。


「体調崩してたんなら、早く言えよ。それなりに食事、考えただろ」

「ごめん、お兄ちゃん」

トウナはよく沸騰させた白湯をすすって、自身の渦流魂を暖めながらフェイクスが用意した食事をとっていた。少し風邪ぎみだった。

「お兄ちゃんだって忙しいんでしょ。大丈夫?」

「まあ、忙しいけどさ、俺のは他人を使う仕事だからそんなでもない。もっと自分の心配しろよ」

「うん、ありがと」

二人とも忙しく、家で顔を合わせることも少なかったから、トウナにとっては兄とのこういう時間は貴重で、気を許せて楽になるから、とても嬉しい。
でも恥ずかしいのでフェイクスにその気持ちを言うことはなかった。

「フィギュア配給公社に就職したいのか?」

「うーん、配給公社に病院みたいなのが新設されたら行ってもいいけど…」

「病院?」

「フィギュアのメンテナンス技師って半分ボランティアみたいなのばかりだから、総合病院みたいなの、出来たらいいかなあって」

「フィギュアの病院か」

「そ。その看護師とかが、理想」

「よく考えてんだな」

「そりゃ、フィギュアの勉強してれば考えるよ。フィギュアと渦流魂との相性はデリケートなんだよ。基本はオーダーメイドで大量生産に向いてない。壊れたら乗り換えればいいって言うけど、そんなに替えがすぐ用意出来るわけじゃない。だから、メンテナンス、まあ、渦流魂の状態と合わせた両方の治療をすることも考えないと」

「へえ…そこまで身体のこと考えたことなかったな」

フェイクスは妹に素直に感心した。

「考えなきゃだめだよ。って、今のあたしが言っても説得力ないか」

「まあな、俺もなんか協力できりゃいいんだけどな」

「いいよ、別に。そこまでお兄ちゃんに頼るつもない」

トウナが兄に負担をかけたくない、というつもりで言ったのは当然、フェイクスは理解していた。だけど、ちょっとは頼ってもらいたいとも感じたが、口には出さない。

「こないだだって、例の盗賊騒ぎで大変だったんでしょ?」

「ああ、あれな、死ぬかと思った」

フェイクスは冗談めかして言った。

「笑い事じゃないよ。今は難民船の仕事だっけ?」

「ま、あんときの盗賊に比べりゃ別にたいしたことでもないな」

「そうだ、うちのクラスにも難民船から一人、一時的に研修で入ってきた子がいたよ。ええと、名前なんだっけ、さかき…なんとかって子。金髪の。品のいいフィギュアだったな」

「そうなんだ」

フェイクスはトウナのその言葉だけで、それがあの手紙をよこした榊夜々子であることにすぐ気づいたが、妹には話さない。もちろん、守秘義務という建前もあるが。

それはこっちの問題だ。トウナが関わる話じゃない。



×  ×  ×



翌日。

難民船団がドーム・コミュに停泊している約二週間の間に生徒会が関わる仕事の指示がほぼ終わり、あとはその進捗状況の報告を確認、 問題発生時の追加指示をするだけだったので、ノキユたちはようやく、やむを得ず後回しになってしまっていた榊夜々子の要望の処理に集中出来ることになった。

しかし。

「甘粕…何て読むんだ。斧(おの)じゃないよな。よき、か?」

「よき、でしょうね。たぶん」

「その、甘粕斧(アマカスヨキ)がどういう人物か知らないが、ドームの最高運営委員長が謝罪することはまずありえないな。この要望書が上まで伝わるとも思えない」

「だから?」

「だから、この要望は取り下げるべきだ」

「確認もせずに取り下げるのなら、あなた一人で判断して断っても良かったでしょう。フェイクス。私とハルモさんの意見を待つまでもない。それとも一人で断るのが出来なかったのかしら」

「まあまあ」
ハルモがフェイクスとノキユを取りなそうとした。

「一人じゃ出来ないだろ。そういう部活なんだから」
フェイクスはノキユが挑発して言ったのとは違う意味で切り返した。

「九重先生と同じなのね」

「聞いたのか。九重先生に」

「聞いたわ。先生方に聞いて分かる程度ならすぐに次に動けると思ったのよ。でも九重先生はまず先に、あなたと同じで取り下げた方がいいと言ってきた。他の先生に聞いても言葉を濁すだけで教えてくれなかった」

「やっぱりそういう類いの人物なんだな。九重先生がそう言ったんなら余計にそうした方がいいだろ。俺たちが出る幕じゃない」

「でも、判断が遅くはなるけれど、確認が取れてからでもいいでしょう。運営委員会に上げるべきかどうかの判断が出来るまでは。そこまでの誠意は示さないと」

フェイクスは黙り込んだ。やっぱりノキユに見せたのは失敗だったか?やる気満々だな、こいつ。この場合のやる気って殺る気?

フェイクスが黙ったままなのでノキユは先を続けた。

「地下図書館で蔵書検索をするわ。検索チームを編成しましょう。人海戦術で行くしかないわ」

「無駄だと思うけどな」

「違うわ。私を誰だと思ってる?わざとやるのよ。目立つように」

だからなんでお前はそんなにけんか腰なんだよ。危なっかしいな。


「でも人手はどうするの?」
ハルモの素朴な疑問だった。

「スナフと彼のお友達に協力してもらいましょう」

「協力…タダで?」

「貸しがあるでしょう、私たちには。彼らに」

「え、ええっ!?貸しにしちゃうの?」

「じゃあ、ハルモは交渉な。元素子を通せばやってくれるだろ」

「ええっ!?」
ハルモは自分で振ったことがそのまま返されて戸惑った。

「俺はちょっと一人で動いてみるから」
フェイクスはそう言うと椅子から立ち上がり、部活作業のため借りていた教室から出て行った。

何なのこの二人。結局フェイクスだってやる気じゃん。でもいつもの二人だ。とハルモ・ルニーは思った。


その三人の会話を九重が外で聞いていた。
部活の時間と場所は九重に提出しているから、聞いていてもおかしくない。

「先生、聞いてたんですか。止めるなら今ですよ。っていうか、一度止めたんでしょう?あいつを。それで逆にあいつに火を付けてる」

「君だって、ノース・ノキユ君を止められなかったんだろう?」

「…ま、そうですけど。こっちが勝手にやってもあれは黙ってないでしょうよ」

「止めるべき時に止めるさ。危険だと分かったら強引にでも止める。それまであまり職権乱用は出来ないんだよ。協力出来なくて悪いが、察してくれ」

「政治っぽいことは嫌いなんですけど。子供でいさせてくださいよ。ずるいですよ」

「ここにいる限り、それは無理だな」


九重は笑みを浮かべながら去って行く。その笑みには、よくは分からないが、いろいろ複雑な意味が含まれているらしいのはフェイクスには分かったから、一方的に責めはしない。

「はいはい…そうですか」

まず何より要望を出した人間の気持ちを知るのが先決だ。榊夜々子の。
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テーマ : 創作・オリジナル
ジャンル : アニメ・コミック

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http://d.hatena.ne.jp/tobofu/
でアニメ感想系まがいのことをやっていますが、こちらはオリジナル創作漫画、小説の発表用のブログです(時間がないときや事情によってはアイデア、プロットレベルのものを提示するのみ、になってしまうかもしれません)。
その他総合的なプロフィールはhttp://www.geocities.jp/tobofu/
参照。

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