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「渦流の国の少女・ 幼年期の終りという名の傲慢」(4)

ノース・ノキユ発案による、ドーム・コミュ地下図書館での人力蔵書検索は予定通り実行されたが、予想通りというか、驚くほど成果がなかった。

その結果をほぼ予想していたフェイクスにとっては驚くに価しない。

「これで甘粕斧に関する情報はフェイクスが榊夜々子さんから直接聞いた話しかないわね…」

ノース・ノキユはだいぶ苛立っているようだった。運営側の動きがちっともないので当てが外れたからだろう。
そりゃ、相手も馬鹿じゃない。そんな分かりやすい相手じゃない。しかし、教師の態度からすれば運営のこの沈黙はまったく意味がないわけじゃない。

「それだけ甘粕斧って人物は運営にとって都合が悪いんだろ。榊の話とも合致するし、ノキユのやったことは無駄だったわけじゃない」

フェイクスはそこだけ口にして、ノキユの苛立ちを宥めようとした。

「でもスナフたちには悪いことをしたわ。無意味な労力を使わせてしまって。こちらの都合だから休ませてあげてって整備部にお願いしたのに…」

「工期遅らせられないからって、すぐドーム補修の仕事に戻ったんだよね、スナフ」

ハルモ・ルニーがあとを継いだ。

「スナフが話の分かる奴で良かったな」

普通、怒るぞ、とまでは言わなかった。ノキユの火を再燃させたら大変だ。一度火が付いたら消すの大変だからな。

「とにかく、この件はここまでってことでいいよな。榊夜々子の要望、運営に回させてもいいが無視されるのは見えてる。暗黙だが実質、教師にも止められてるし。榊には悪いが仕方がない。俺たちの分を超えてる。そろそろはっきりさせた方がいい」

ハルモが黙ったままうんうんと頷いた。

「そうね、別の案件もあることだし…」

「別の案件?」

「フィギュア配給公社からの、フィギュアの配給が遅れてるの。その遅れが少しも解消されない」

ハルモも分かってるらしく、初耳のフェイクスに説明した。フェイクスが榊夜々子の件で動いている間、ハルモとノキユの二人で対応していたらしい。

「遅れって、いつからだよ」

「難民船が着いてからかな。少しずつ。難民船にもフィギュア配給してるでしょ。だから、そのために本来のドーム内への配給が滞ってるんじゃないかって、勘ぐられて…抗議が来始めてるの」

「それはもう、運営が直接処理することだろ。調査部あたりが動くべき案件だ」

「もちろん運営も動いてるけれども、難民船関係は生徒会が請け負ってもいたし、状況報告は疎かに出来ないのよ。引き続き現状把握を求めて来てる」

「でも難民船絡みであたしたちに抗議が直接来ちゃうんだよね…。あたしたちが何とか出来るわけじゃないのに」

ノキユはそれで苛立ってたのか。着火要因はこっちにあったか。

「わかった。配給不足の件は悪いがしばらく対応しててくれ。俺は榊の件を何とかする」

ノキユたちの協力を仰ぎたかったが、仕方ない。

「フェイクス、でも…」

「ノキユ、あまり抱え込むなよ。お前の悪い癖だ」

フェイクスは恥ずかしくてノキユから目を逸らして言った。

いざとなりゃ、九重先生を巻き込んで丸投げだ。こっちは子供だ。あの先生の駒になって動くのも限度ってものがある。



×  ×  ×



学校に出てこいとしつこく催促されて、出て来てみればこの子供じみた仕打ちだ。

榊夜々子は教室に置きっ放しだったテキスト類が行方不明になっているのに気づいて思わず独りごちた。

たぶんどっかに隠されてるんだろうけど。もともとよそ者だし、自分でも持てあましてる品が良すぎるこのフィギュアに対するやっかみもあるのか、クラスから明らかに浮いていていじめの対象になってしまうのは他人事のように理解出来るし、以前のコミュでも受けた仕打ちだ。そんなのも、端末の攻撃を防ぎきれなくなって学校そのものがあっさりなくなってしまえば吹き飛んでしまう。所詮は一時的な、狭い世界での空気の維持、保守でしかないと、よく知っている。そんなもの、どうってことない。

このコミュでの一時停泊の条件として、学校でこのコミュでしか通用しないような、意味があるとはとても思えない歴史や社会のルール等の授業を受けなければならなかったので仕方なく付き合ってるだけだ。どうせならまだ前衛部隊で研修を受けた方が役に立ったのかもしれないが、その希望は出したものの、全く無視された。

結局、選択肢はなく研修という名目で一方的にこのドーム・コミュの主義主張、思想の教育を受けさせられる。それは一方的なこのドーム・コミュの宣伝にしか見えなかった。
そのくせ、渡されたテキストにざっと目を通してみれば、功労者であるはずの父に関する記述は一切無い。追放されたのだから当然の報いなのは分かるが、怒りが収まらなかった。

自分とそんなに年が離れていないと思われる若い教師は父の名前を本当に知らないみたいだった。あの総合校の男子学生は父の名前を知らないまでも、知ろうとしてくれたし、自分の話も聞いてくれた。あの先輩の口ぶりから察するに、父の存在は本当に一部の者しか知らないんだろう。

だから余計に、父の名前を知らしめたかった。もうとっくに父は亡くなっているし、今更このドームをどうこうしてくれというのはない。生まれ故郷ではあるが育った地ではないし、正直ここがどうなろうと知ったことじゃない。復讐劇の主役気取りでいるつもりもない。ただ、知らしめたいだけだ。


「何か、忘れ物?」

「はっ!?」

教師から建前としか思えない、意味の無い説教を食らい、夕刻の誰もいない教室に戻ってみればいじめに遭っていることを知って憤りが収まらず空回りしていて、全く油断していた。

窓から夕日の自然光が入るドーム内壁近くの学校である。窓の外ドーム外縁で補修のために動く複数のキグルミの姿が見える。

「難民船からの編入してきた人だよね。名前、ええと、榊…何だったかな。ごめん」

名字まで知ってたら十分だ。この学校の制服だし、話しかけてきたこの少女は同じクラスの生徒なのだろう。

「夜々子よ。同じこのクラスよね?なのに、あたしだってあなたの名前知らないんだから、お互い様」

夜々子の方は一時的な編入で制服までは支給されてはおらず、私服代わりの制服だったから、むしろ分からない方が普通だ。フィギュアの上にさらに「服」を着ること自体珍しいし、贅沢だった。

「トウナ・オリジ。あんまり学校来てないでしょ。私の名前も知らなくて当然か。こっちは綺麗なフィギュアだから一度見ただけであなたのことよく覚えてるんだけど」

夜々子は一瞬顔を顰めた。が、フィギュアの品の良さで相手にあまり不快感を与えなかった。それだけに、それが自分の、内面(渦流魂)の品の良さではないことを余計に思い知らされて、皮肉と受け取りがちだった。

「あ、この言い方、気に障った?」

「いや、別に。慣れてるから」

夜々子はトウナの心遣いについ、気を許してしまう。

「あなたこそ、こんな時間にどうしたの?」

「職員室で説教されちゃってね。榊さんも呼ばれてたよね」

話題が自分に向くのを回避したつもりの夜々子だったが、すぐにトウナに返されてしまう。気遣いがあるようで相手の事情にズカズカ入ってくる。それを自然体でやっているようにも見えるから嫌みは感じない。きっとこの子は渦流魂とフィギュアのズレなんかで悩むこともないんだろう。

「まあ、授業中、居眠りばかりになってるから仕方ないんだけど」

「そうね。ここの授業退屈よね」

「うーん、いや、私の場合は、その、放課後、フィギュア造型の教室に通ってるからそれで忙しくなっちゃって…」

授業中の居眠りの反省もあるのか、トウナは恥ずかしそうに言う。

「そうなんだ。でもはっきり言ってそっちの方が役に立ちそうよね」

「うん、ま、そうなんだけどね。基本は学校でも教えてはくれるけれど、より詳しく突っ込んだところまではいかないし。部活でそういうの出来ればいいんだけど許されてないらしくてね」

「何のための学校かよく分からないわ」

こんな下らないテキスト、と机の中から出そうとして手が空を掴む動作に夜々子は焦った。しまった、調子に乗りすぎた。

「テキスト持ってきてないんだ?」

トウナが机の中を覗き込み、夜々子が取り繕う隙を与えなかった。


夜々子は簡単には自分の態度を崩せず、トウナにテキストを誰かに隠されたらしいことを伝えた。それは嘘ではなかった。
トウナは家に帰らず学校から直接フィギュア造型の教室に向かうので、その予定の時間に間に合うまで、テキストを一緒に探そう、と言ってくれた。

自分が隠すならどこに隠す?と、トウナは普通なら他人が傷つくこと平気で言って、夜々子と二人であれこれ想像し、ドーム内壁天井近くに設けられた学校の、一部校庭も兼ねた巨大な空中庭園中央に位置する噴水の池の中、というベタな場所に目立つように無造作に捨てられているのを見つけた。

粗雑なコピーを束ねたものでしかない夜々子のテキストは水に濡れてまったく読めた代物ではなくなっていたので、トウナは嫌がる夜々子を促し、そのまま一緒に職員室に向かって事情を話し、夜々子は新品の正式なテキストを手にすることが出来た。

テキストの内容が下らないという思いは無くなりはしなかったが、探すのを手伝ってくれたトウナの手前、授業をサボるわけにはいかなくなった。

このままトウナと友達になって、フィギュア造型の勉強もしている彼女に、渦流魂とフィギュアの不一致という自分が抱える悩みをいつか話せる時がくるのだろうか、と夜々子は子供じみた淡い期待をほんの少し、抱いてしまった。

父の形見でもあり自分の手に余るこの「器」についての話が…。
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テーマ : 創作・オリジナル
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http://d.hatena.ne.jp/tobofu/
でアニメ感想系まがいのことをやっていますが、こちらはオリジナル創作漫画、小説の発表用のブログです(時間がないときや事情によってはアイデア、プロットレベルのものを提示するのみ、になってしまうかもしれません)。
その他総合的なプロフィールはhttp://www.geocities.jp/tobofu/
参照。

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