九重とスナフ、二人が次にたどり着いたのは研究用の施設だった。九重はフィギュアの指紋認証でドアのロックを解除しようとするが、ドアは開かない。学生も使う施設なので教官である九重にも入室する権限はあるはずだった。
「やはりか」
訳が分からないスナフが言葉を発しようとした瞬間、施設の一部が突然吹き飛んだ。非常用のサイレンがけたたましく鳴り続ける。
九重がとっさのことで物理シールドを展開し、スナフを庇ったので二人とも無事ではあった。
だが、破壊された研究施設の状態は尋常ではなく、九重たちが入ろうとしていたドアはあとかたもなく吹き飛び、フロアの奥の壁の一部もが吹き飛ばされていてドームの外の風景が見えた。その風景の中をいくつかの光の筋が走った。
「『端末』の定時攻撃だな」九重は自らのフィギュアの体内時計を確認していった。
「この攻撃はすぐ止む。仕方がないがここから待避だ」
九重はスナフに叫んだが、スナフは何かを見つけたらしく、逆に研究フロアに入っていった。
「少年!早く出ろ!危険だ!生身なんだろう!君は…まったく!」
九重も傾いていつ崩壊してもおかしくないフロアの中に戻った。
スナフの後ろ姿、何かを抱えて座り込み背中を丸めている彼の姿が見えた。泣いているようだった。
後ろからのぞき込んだ九重の視界に「人間」の頭部らしきものが見えた。
たぶん、ハッカーニという少年のものなのだろう。
九重はしばらく何も言えなかったが、ここでゆっくりとしているわけにもいかず、スナフを急かそうとした瞬間、第二の衝撃が来た。
さすがに今度は九重とスナフはそれぞれ引き離されて、吹き飛ばされてしまった。九重はドームフロア内に引き戻されたが、スナフの姿が見あたらない。三度九重は外壁が破壊された近くに寄ろうとしたがフロアが滅茶苦茶に破壊され足場が悪い上、研究機器や、研究員と思わしきフィギュアの破片等散乱し、道を遮られてしまっていた。
「くっ!」
九重はスナフの名前を呼ぼうにもまだ名前をちゃんと聞いていないことに気づき、言葉が続かなかった。
『九重先生ですか?』
スピーカーを通した声が響き、穴の開いた外壁から汎用型の人型キグルミの顔が覗いた。
「その声、元素子君か?」
『そうです、それに』
元素子はキグルミの右腕を上げてその手のひらにスナフを受け止めたことを九重に見せた。
「無事だったか。さすがだな元素子君。申し訳ないが彼をコクピット内で保護してくれないか。その方が安全だろう」
『はい!』
元素子はキグルミの胸のコクピットハッチを開くとスナフに言った。
「はやくこの中に入って!ええと、名前…」
「自分の名前を教えてやれ、少年。私も知らないんだ」
キグルミの手のひらの中で、大事な友人であるハッカーニの頭部をちゃんと両手で掴んでいたはずなのに、衝撃でどこかに落としてしまったことに打ちひしがれていたスナフは涙を拭い、こらえた上で、元素子と九重両方に向き、
「…スナフ、スナフ・スラブタル」
と伝えた。
「スナフ!早くして!攻撃はまだ終わってないんだから!」
元素子のキグルミは破損したドームの外壁を庇うようにしていたが、その背中のバックパックに幾度も攻撃を受けていた。一応渦流の物理シールドは展開してはいたものの、着弾のたびにキグルミがよろけそうになっていた。
「元素子君、たのむぞ!」
九重はそう叫ぶとドームフロアの内部に駆けだしていった。彼女は彼女なりにやるべきことを見つけていた。
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