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「渦流の国の少女・ 幼年期の終りという名の傲慢」(1)

建設途中だったあるドーム・コミュが破壊され、残された居住ユニットはホバー運搬船に牽引されて、次の定住先を探していた。
その、ユニットが長く列車状に連結された難民船団は、元素子たちの住むドーム・コミュ「スラタリア」にたどり着こうとしていた。

遠く「スラタリア」へ向けて難民船団は左へ緩やかに弧を描くように進む。
広大な瓦礫、少なくとも数千年以上、まったく復興事業もなされていない地表と正反対に、船団居住区の屋上にあぐらをかき、両腕を床で支えて背を反らしながら真っ青な空を見上げるフィギュアの少女がいた。

榊夜々子(さかきややこ)。

向かい風でその肩ほどまでの金髪を揺らしながら上体を起こし、前方に近づくドーム・コミュ「スラタリア」を眺める。

「父さん、やっと帰ってこれたよ。今度こそ…」

その夜々子の独り言をもう一人の少女のフィギュアが遮った。

「榊さん、運が良かったですね。端末の攻撃、あれだけで済んだ」

「そうね」

夜々子はそう話かけてきた、セーラー服姿で、手足に大砲やらミサイルポッドやら他にもゴテゴテ無骨なパーツを取り付けた少女に対して答えたが、余韻を邪魔されて少しムッとした。

アーマード・バックパックによる、フィギュアの上にさらに着る服としての強化外骨格なら実戦用として分かるのだが、あまりにも不格好すぎる。

「カン・レムスさん、そんな格好で平気なの?」

「だってこれしか着るフィギュアないんですもの。でも、これでも端末一機は撃破したんですよ。偉いでしょ」

「そう」

夜々子はそれ以上言葉が続かなかった。貧しいコミュではフィギュアの配給もままならない。

だからこそ、あそこへ行くんだ。あの、栄華を極めすぎているドームへ。



×  ×  ×



ドー ム・コミュ「スラタリア」側では、難民船団からの停泊要請を受け、その受け入れ処理を例によって、ドーム・コミュ運営生徒会長のノース・ノキユと、役職名はあるのだが実質雑用係のフェイクス・オリジ、そして各部署との交渉係であるハルモ・ルニー以下、生徒会のメンバーが引き受け、その準備に追われていた。
しかも形上、難民船のためのささやかな歓迎会も行うのがすでに通例になっていて、それは専門の歓迎委員会が組織されてはいたが、生徒会が彼らに丸投げというわけにも行かなかった。

難民船の住人すべてをドームへ受け入れるわけではない。人手は足りないが、居住を保障する余裕はない。だから、一定期間の停泊だけが許されていた。これが初 めてのことではなく過去に幾度と行われてきたことだから、慣習としてすでに定着していた。難民側もそれは承知の上だった。

難民側は渦流燃料やフィギュアの身体など、補給物資の配給を受ける。対して、主に金銭や労働力をドーム側に提供する。この場合直接的な労働力の提供の比重が断然大きかった。ドーム側にはない技術を持ったヒト、あるいは他の星国の者がいる場合があるからだ。

それは同時に歓迎会とは言いながら短期間ではあったが、文化交流の良い機会にもなったのだ。

難民船の住人と一緒に、取りあえず設えた仮設住宅に案内された榊夜々子は、仮設住宅エリアの脇に放置され古ぼけた目安箱が目にとまり、その前に突っ立ってしばらく逡巡していた。

そこへ仮設住宅へとりあえず宿泊することになったヒトビトのための名簿作りのため、通りかかったフェイクス・オリジに夜々子は声をかけた。

「これ、目安箱…ですよね」

「…え?」

フェイクス自身もそんなものの存在をすっかり忘れていたので、夜々子の側の目安箱らしきものをまじまじと眺める。

ドーム・コミュの外見は優先的に小綺麗な体裁を整えられつつあった。工期の進捗もほぼ順調であり、スナフを中心にあのスラブタルフィーギの盗賊からの移住者のおかげで作業は思ったより捗っていた。
そ れに比べ、ドーム内の施設は、運営委員会のある省庁やいわゆる「山の手」の富裕層の高級住宅地を除けば、下町にあたる、ドーム建設前からドーム建設のため の立ち退きを拒否し、あまりに頑固な反対運動に運営側が折れて、その古びた町並みは取り壊されずに済んでいた。しかも、下町の住人のたくましさから、その古びた長屋や蔵造りの建物は外から来る渦流魂のヒトにとっては懐かしく、また他の星国の者含めての絶好の観光地ともなり、その収入は馬鹿にはならなかっ た。

観光地化に伴い、荒れた田畑も整備され、そこそこ自立経済も潤っていた。さらにそれゆえ、ドーム・コミュ内は近代的な施設と自然環境が、お仕着せな特別な都市計画によるものでなくとも、有機的に景観が融合し、理想的な風光明媚を持つコロニーとして有名になりつつあった。

難民船のヒトビトを向かい入れる仮設住宅も、旅館だけでは収容仕切れないために、古びた空き家を利用したもので、空き家と言っても元々ドーム以前の対端末防御も考えられたものであったため、簡単な清掃と補修だけで、難民の者には立派すぎる住居で、しきりに感動していた。

その仮設住宅の側の古びた目安箱は、見た目の印象から、ドーム建設以前、さらに昔のゲーテッドコミュニティ以前の細々とした「村」の時代に設置されたものらしかった。

まあ、今更使われているとも思えなかったが、近くに人が入ってくるので使えるかもしれないな、とフェイクスは考えた。

「どうなの?」

金髪の、ちゃんとフィギュアの身体とブレザー姿の制服が別々になっている、自分と同い年か下くらいの少女はしつこく聞いてきた。難民船に乗ってきた割には小綺麗で質のいいフィギュアだった。

「ああ、何か要望があるのか?…あるんですか?」

相手が年下かどうかも分からないし、難民は一応客人なので、思わず丁寧語に言い換えた。

するとその金髪の少女は後ろ手に隠してた一通の手紙をフェイクスに見せ、目安箱に入れようとした。

「あ、いい、僕が直接受け取るよ。ここの生徒会の人間だから。その方が早いだろう?」

「そうなんですか。じゃあ、お願いします。ちゃんと見てくださいよ」

少女はフェイクスの前で前屈みになり、上目遣いでフェイクスに目を合わせて悪戯っぽく笑った。

どちらかというと女性の扱いが苦手なフェイクスは一瞬どぎまぎしたが、騙されまいと気持ちを抑えた。

さて、早く仕事を片づけて部室に戻るか。「調整部」を始めてみたものの、これもいつ解決出来るかどうか。

調整部。フェイクス、ノキユ、ハルモ、三人だけの裏生徒会ともいうべき有志による部活動。
生徒会の表の活動でやむをえず取りこぼしたものを「調整」、生徒の不満をガス抜きすることを考えたり、決まり事だけでは済まない問題を処理するもので、九重先生の何気ない発案のもと出来た部活動。

ただ、表の活動が忙しすぎる三人なので、解決の方向性と手順だけは決めて、主にハルモ・ルニーの付き合いの人脈の広さの恩恵に預かって協力してもらい、実行する部活だった。

裏生徒会と称される通り、あまりドーム・コミュの住人には知られてはいなかったが、口コミレベルで多少とも広まり、密かな駆け込み寺のような存在になっていた。

とは言っても、やはり三人は表の仕事で忙しく、依頼を受けても、依頼の数に対して処理し切れたのはほんの少ししかない。

今回の夜々子の手紙も封をまだ開けないまま、三人が揃ったのは受け取って三日後だった。


「あなたが受け取ったのだから先に開けてもよかったのに」

フェイクスから夜々子の手紙を渡されたノース・ノキユが言った。

「一応部活動なんだからそうも行かないだろ。部長のノキユが最初に見るべきだ」

「生徒会とは違うのだから、上下関係あるわけでもないでしょう?」

そう言いながら、ノキユはペーパーナイフで手紙の封を切る。

「目安箱を使おうとするなんて珍しいね」

ノキユの隣に座っていたハルモ・ルニーが、折りたたまれた手紙を開くノキユの手元を覗きこむ。

ノキユは手紙に書かれた文章をざっと眺めると、首を傾げる仕草をした。同時に手紙の文章を見たハルモもよく分からず、確認を求めようとノキユの顔を見る。

ノース・ノキユは無言でその手紙を広げたまま、少し離れた位置に座っているフェイクス・オリジに向けてテーブルの上を滑らせるように渡した。

フェイクスの視界にその文章が入った。短く、簡潔な文章だったので、眺めるだけで充分だった。


『ドーム・コミュ・スラタリア最高運営委員長殿

父、甘粕斧に対する謝罪を要求する。

以上

榊夜々子』


フェイクスは改めて手紙を手に取り、そしてテーブルの上に置いた。

三人はお互いの顔を見合わせ、しばらく無言の間があった。誰が一番先に発言するか、お互い待っているようだった。

「どうするよ」

フェイクスが口火を切る。

「と、匿名じゃないってことは本気なのかな…」

ハルモは焦れったくなってノキユの言葉を待つ。

「確認しなければならないことがたくさんありそうね」
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その他総合的なプロフィールはhttp://www.geocities.jp/tobofu/
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