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「渦流の国の少女・ 幼年期の終りという名の傲慢」(3)

この街(ドーム・コミュ)に住んでいると、自分がフィギュアの身体を持つ渦流魂だということを時々忘れる。
渦源流からの端末という外敵の脅威は未だ存在し、端末に狩られる危険性も何ら解決されてはいない。端末と戦う前衛部隊での戦死者は少なからず、出る。
しかし、多少なりとも安全と日々の平和を手にしてしまえばそれに慣れてしまい、身体感覚レベルでの意識はどうしても弱まる。
「人間」の真似事をしているだけだということを忘れる。

「先輩って総合校の人だったんですね。フェイクス・オリジ先輩」

榊夜々子は、ある難民船団居住ユニットの一つの前を待ち合わせ場所として指定したフェイクス・オリジの周りを、両手を後ろ手で組み上体を少しかがめ上目遣いでフェイクスから視線を逸らさず、くるくると衛星のように回る。

「先輩?」

「学校は違うけど、年上だから先輩でしょう」

フィギュア自体の品の良さも手伝って小悪魔的な可愛らしさもあったが、その仕草は相手に対する索敵表現のように感じられたから、フェイクスは気を抜くつもりは一切なかった。


「早速だがな…。あの要望書のことだけど…」

「読んでくれました?」

「申し訳ないが、あの要望は通らない。済まないな」

「え?」

「教師に止められてな。生徒会が教員の指導の下にある以上、無理だ。それに、こちらの勝手な都合だが非公式な管轄でな。分を超えてる」

「それで引き下がるんだ」

そう煽ってきたか。


「甘粕斧(アマカスヨキ)でいいのか、読みは?」

「そうよ」

「榊だよな。名字が違うな」

「名字無し、ラストネーム無しなんて珍しくないでしょ。名字を使うのは別に強制されてるわけじゃない。違う名字でも同じ家族よ。私の場合は父が私を同じ名字だと知らせたくなかったからよ。知らないんですか?甘粕斧」

「知らないな。何にも教えられてない。教師にも聞いたが教えてくれない。言葉を濁された」
フェイクスはノキユから聞いた話を含めた。

「やっぱりね。父はこのドームにとっては危険人物にされてるんだわ」

「何かあるらしいのは分かるけどな、その甘粕斧がどういう人物か、分からなけりゃ動けるとしても動きようがない。例えば、余程の危険人物なら悪者に仕立て上げたストーリーを作ってでも逆に教えるだろう。だが名前すら聞いたことがない。名前すら知られたくないほど都合の悪い人物なのかもしれない。だったら余計に記録さえここから抹消されているだろう。あくまで推測だ。知らないから推測するしかない」

嘘ではなかった。正直な推測だ。ノキユに言うタイミングを逃した推測だ。

「酷い大人たちね」

「そうだろう?何でもかんでも子供にやらせる割に、自分たちは何か隠してるんだぜ」
ここもノース・ノキユの口癖を借りたが、ちょっとオーバーにおどけてみせた。

「父はこのドーム・コミュ建設計画の発案者なのよ。渦流燃料のリサイクルシステムやフィギュアの大量生産計画も父の発案。そうやって渦源流に対する防衛と同時に、星国、トライアングル星雲の裁定者たちにも対抗しようとした。でもそれは独裁だと運営委員会やコミュの市民の反発に遭って、糾弾されて、私、母や妹、家族共々ここから追放された」

「そうか」
よし、しゃべり始めたぞ。

「父のおかげで、先輩たちは今の生活があるのに」

「渦流燃料のリサイクルは実現してるが、フィギュアの大量生産はまだだな。一応配給公社はあるけどな」

「そう。それは裁定者たちに抑えられてるんだわ。渦源流が怖いから、渦流魂の私たちを進化させたくないから、タブーにして規制してる。自分たちは高度な文明を手にしていて、勝手だわ。傲慢よ」

「その話が事実だとして…いや、悪い。ドームの偉いさんに謝罪させて何か見返りが欲しいのか?」

「ただ、父に対して謝って欲しいだけ。別に何の見返りもいらないわ。残った家族は私一人だけになったから、私に謝罪してほしい」
夜々子は即答した。


「真実を知らないなら、今ここで伝えました。再び謝罪を要求します。がんばってください、先輩」

「しかし、難民船の停泊期間は確か二週間だろう。もう二週間切ってるし、間に合わないかもしれない」

「何言ってるんですか、難民船団が出発したって、謝罪があるまで私はここにいますよ?ここは私の故郷なんですから」

分かった。逆に乗せられたような気がするが、夜々子の出方は分かった。これは俺一人では無理だ。



×  ×  ×



フェイクス・オリジと榊夜々子が会って数時間後、端末の定時攻撃が始まった。その戦闘終了後、整備部の備品チェックの報告書受け取り目的で、前衛部隊キグルミハンガーデッキに来たハルモ・ルニーは、そのままキグルミのコックピット内にまだ残っている元素子を見つけた。

「スナフはもういないの?」

ワイヤータラップでキグルミの腹部に位置するコックピットまで昇ったハルモは元素子に聞く。

「ええ、待機室じゃないかな」

キグルミのコックピット内で機器の調整をしながら元素子はハルモの声に対してだけ応える。

キグルミに設置されたフィギュアの手足を使った操作系システムは、すでに出来上がった基本設計があり、裁定者側からの技術提供の許可が下りれば、すぐに取り付けることが出来て、その操作に慣れるのもあまり時間がかからなかったが、従来の渦流魂による直接操作に比べれば反応速度が若干落ちた。そのため、ドーム側で独自のカスタマイズが必要になって、ここ数日、元素子は整備部と打ち合わせをして大雑把な見積もりを出し、カスタマイズの許可申請書にまとめて、その書類をハルモにこの場で手渡した。

一方でハルモはフェイクスに言われた通り、ノキユの図書館での人力蔵書検索の仕事の話をした。

「スナフが承知するのなら別にいいけれど、そういう人使い荒いの、嫌われるよ?」

「いや、まあ、そうなんだけどさ」

話の流れで、 ハルモは榊夜々子の名を口にした。元素子経由でスナフに頼む以上、仕方がなかった。

「夜々子…。いや、なんでもない。気にしないで」

夜々子という名前に元素子が反応した。

「気にするよ!何か知ってるの?知ってたら教えてくれない?お願い!」

ハルモは手を合わせて食い下がった。情報はなるべく多い方がいい。


ノース・ノキユは人力蔵書検索の準備もあり忙しいので、ハルモはすぐにキグルミハンガーデッキまでフェイクス一人だけを呼び、二人で元素子の話を聞いた。

元素子の姉も「夜々子」という名前だということ、そして、元素子の姉の「夜々子」はすでに亡くなっていること。

「死んでるとはいえ、自分のほか家族三人の渦流魂抱え込んでたってのか?」

元素子と多少の付き合いはあるにせよ、プライベートな話でもあり、ここまでのことはフェイクスも知らず驚いた。

「あたしだけじゃなく、家族全員の渦流魂が特殊だったのかもしれない。そのあたりははっきり分かってない。でも、家族の渦流魂のおかげで今まで生き延びてこれた。逆にそれだけ力のある渦流魂を持ってるから端末を引きつけてしまいやすかったのだけれど…」

「甘粕斧って人物も、知らないんだな?」

フェイクスは要点だけを聞き出そうとした。元素子の気持ちに対する配慮もあった。もちろん前衛部隊のことも考えてあまり元素子を長く引き留めるのもまずい。

「ええ。父の渦流魂も一時期抱えていたけれど、死んだ渦流魂だし、その記憶が分かるほどあたしたち便利じゃないしね。あたし自身の父に関する記憶も朧気ではっきりしてるわけじゃないの。物心ついた時には姉と二人で、姉は戦闘が不得手だったからあたしが頑張るしかなかった」

「甘粕って名字でもなかったんだ?」

ハルモが聞いた。

「違う。あたしはこのドームに来る前から名字無しだから。仮に父が何らかの名字を名乗ってたとしてもそれについてはっきりとしたことは分からない。だからその甘粕某が本当のあたしの父親だったとしてもそれを確かめる術はあたしにはない。ごめんね、分からないことばかりで。こんなの参考にならないでしょう?」

「いや、いいんだ」

「でも、あの要望書出してきた夜々子は榊を名乗ってるんでしょ?」

「名字なんてどうにでもなるだろ。俺は親無しだが、育ての親の関係でラストネーム有りになってる。ハルモと違ってな。その辺の基準はこのドームでもまだ整理されてない。いずれ基準が出来ていくんだろうけどな。榊は、あいつは父親が娘のことを思ってわざと違う名字にしてると言ってるが本当かどうかわからん」

社会制度自体、先端を行っているはずのこのドーム・コミュでさえ、家族の制度としての統一はまだまだ進んでいるわけではなかったので、その市民である彼ら同士でもこのような会話になった。血縁関係による「家族」の概念がないために、太古の「人間」の家族の有り様や制度を中途半端に真似しようとして、さらに複雑な状況になっていた。

基本的に、親無しの渦流魂のヒトの身元引受はドーム・コミュ運営そのものだった。コミュの市民として認められれば一定の条件での生活は保障された。家族制度が曖昧な現状でその決まりは市民にとっては分かりやすい基準であり、ドームの外で生きてはいけないヒトにとっては有り難い決まりだった。

フェイクス・オリジの養父母はすでに亡くなっていて、戸籍上はオリジ家を名乗ったままだが、身元引受人はドームの運営にあった。だから、フェイクスは妹のトウナ共々、「生活」という側面でドームに人質に取られている、という見方もできた。


「そうか…。その、元素子のお姉さんの渦流魂が新しいフィギュアを得て、あの夜々子にってのはないのかな…」

「ハルモ、もう話は終わってる。これ以上は答えが出ない妄想にしかならない」

フェイクスは話を切り上げようとしたが、元素子がハルモの問いに乗った。

「トフボフの渦流魂って、知ってるよね。あれに出会って、あたしは父母姉の渦流魂を持ってかれた。あたしも巻き込まれたらしいけれど、奇跡的に助かった。トフボフの渦流魂はミニ渦源流とも呼ばれてるから、そういう可能性はあってもおかしくないし、その妄想、結構惹かれるけどね」

元素子はもちろん、そのトフボフの渦流魂がフィギュアの身体を得て、「うづる」と呼ばれたことは言わなかったし、

「えっ、元素子、トフボフの渦流魂に遭遇したことがあるの!?」

星国の裁定者によって、トフボフの渦流魂に関する情報の開示は一定範囲内で許可され、その情報をもとに教育課程で教えられていたものの、その存在は伝説級であったので、ハルモの驚きは当然であり、フェイクスにとっても単純に興味惹かれる話だったのだが、

「ハルモ、行くぞ。ありがとな」

その話はここで広げるべきじゃない、とフェイクスは判断し、元素子に礼を言ってハンガーデッキの出口へ向かった。

「あ、フェイクス、待って。元素子ありがとね!」

ハルモがフェイクスの後を追った。

元素子もその二人を目で追いながら、姉の「夜々子」が生きている可能性についてぼんやりと考えた。そんなことあるわけない。と即否定しつつ、その可能性に引きずられてしまう自分の気持ちに気づいて戸惑った。

うづるさんの力ならあり得るかもしれない。もし姉さんだとしたら。もし…。
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http://d.hatena.ne.jp/tobofu/
でアニメ感想系まがいのことをやっていますが、こちらはオリジナル創作漫画、小説の発表用のブログです(時間がないときや事情によってはアイデア、プロットレベルのものを提示するのみ、になってしまうかもしれません)。
その他総合的なプロフィールはhttp://www.geocities.jp/tobofu/
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