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「渦流の国の少女・ 幼年期の終りという名の傲慢」(5)

フェイクスは最初に榊夜々子を呼び出す際、個人情報である夜々子の住む、ドーム外縁「港」と呼ばれた大型搬入口に停泊中の難民船居住ユニットの場所を、総合校生徒会の立場を利用して、いわば権力を使って知った。
そして再び直接居住ユニットに来たとき、部屋の同居人であるらしい、カン・レムスという名のフィギュア少女に、夜々子はまだ学校だと言われた。

両手で抱えるほどの大きさの大砲が無造作に散乱している部屋の中にいるカン・レムスが、

「ここに来てから外に出してくれないんですよ!酷いですよね!」

とフェイクスに訴えた。

まあ、戦闘時はともかく普段のドーム内でゴテゴテ大砲手足に付けて外出したら明らかに不審者だからな。難民船側としても余計ないざこざは避けたいだろうし、何より恥になる。だから隔離されてんだろう。フェイクス自身もそのフィギュア少女と関わることで難民船の住人に不審な目でジロジロと見られてしまうことになって、あまりいい気はしなかった。

フェイクスはそのままスルーして、夜々子に会うため、ドーム天井近くで夕日に染まる訓練学校へ向かった。

ほぼ同時刻、他の星国のフィギュア造型師がボランティアで開いている教室(ワークショップ)に向かうトウナに途中まで付き合うだけのはずだった夜々子を、夜々子があまりにフィギュア造型に関心を示すので、見学していかない?とトウナが誘い、夜々子もそのトウナの言葉に甘えることになった。



×  ×  ×



一方、フィギュア配給不足の問題は配給公社に抗議が集中し始め、それは収まらないどころか、急速に暴動まで発展した。

その暴動の中で例の「甘粕斧」の名前を聞いたと、生徒会のメンバーが生徒会長のノース・ノキユの元へ報告してきた。
あまりにも危険な状態のため、ノキユは新設されたドーム警察の出動を要請し、暴動の現場から生徒会のメンバーを全員引き上げさせたところだった。

「なんで、フィギュア配給不足の暴動であの名前が出てくるんだろ」

ハルモの素朴な質問だった。

「そうね。記録には全くないけれど、住人の記憶には残っていた、ということね。でも、何故今なのか、配給不足とどう関わるのか、分からないわ。フェイクスの言う通り、ドームにとっては余程都合の悪い名前なのは確かなようね。ヘイトを誘発しやすい名前なのかも知れない」

ノキユも困惑していた。

「最近、甘粕斧の言葉を持ち出してきたのは、榊夜々子さんだよねえ…。まさか」

「榊さんが私たちも使って、甘粕斧の名前をわざと流布して、暴動を仕掛けたっていいたいのかしら?運営への復讐のために?」

「いや、そこまで決めつけてはいないんだけど。あの謝罪要望、本人だってまず通らないって思ってるからかも、っていう」

「それが本当ならこのドーム・コミュに対する立派なテロ行為になるわね」

「ノキユ、どうしよう?フェイクス、呼んでくる?」

ノキユはしばらく黙った。そして、

「フェイクスを呼び戻してる時間は無いわ。警察が早く動いてくれたらいいのだけれど、それまで私たちで出来ることをやるしかない。まず九重先生に至急来てもらいましょう。そしてあまりやりたくは無いけれど、暴動の対処を自警団にお願いするわ。その方が動きが速い。それと、榊夜々子さんの保護。彼女が甘粕斧の言葉の流布の元になっているんだとしたら、彼女も危険だわ。フェイクスにはそれまで榊さんを匿ってもらう」

「自警団に頼むの、まずくない?」

ゲーテッドコミュニティー時代からの名残であるドーム内各地域の自警団については、勢力争いが絶えず、市民にとってあまりいいイメージがない。その、新設されたばかりのドーム警察組織への再編もままならず、自警団それぞれの組織のこのコミュは我々が守る、という強いプライドがそれを妨げていた。さらには同じく自警団出身者と外部からの傭兵部隊で組織された対端末戦のための前衛部隊との対立もあり、複雑だった。

「仕方ないわ。私だって出来れば頼みたくないのだけれど。ハルモさんはこのこと、フェイクスに伝えてくれるかしら?」

「了解!ノキユも無理しないでね!」

「ええ、ありがとう。気をつけるわ」

ノース・ノキユは生徒会のメンバーを通じて、自警団に連絡を取らせ、出来るだけ市民を刺激しない形での暴動の対処と、榊夜々子の保護についての協力要請を出した。
だが、ノキユが直接出向かわなかったこともあってが、この内容が素直に通じるわけがなく、自警団側で独自に解釈されてしまうことになった。



×  ×  ×



フェイクスが夜々子がいるはずの天井区画近くの訓練校へと昇るエレベータに乗ろうとした時、道路を挟んだ比較的古びた町並みの影で、不自然な、虹の光の断片が走るのを見た。その路地の隙間の向こうに、倒れ込む制服姿のフィギュアの少女の姿があった。

「トウナっ!」

かなりの距離があったが、妹の姿を見間違えるわけがない。フェイクス・オリジは路地に向かって走った。

道路を横切り、上下線のいくつかのタイヤ付きの車が急ブレーキをかけた。ドーム外の瓦礫の上とは違い、ホバー車ではなく、きちんと舗装された道では同じ渦流燃料を使えど、ドーム内ではタイヤ付きの車が当たり前だった。

「なんなんだ?」

「あれ!フェイクス!?」

急ブレーキをかけた二台ほど後ろの、九重・ヴァン・花蓮が運転する車に同乗しているハルモ・ルニーが前方を指さした。
榊夜々子のいる難民船に向かったのであろう、フェイクスに会うために校舎を出たところ、運良く九重の車に拾ってもらったのだ。

狭い路地を抜けながら、フェイクスは目の前左に倒れている妹のトウナ・オリジ、右に一目見たら忘れもしないフィギュアの榊夜々子が三人の体格のいい男たちと格闘しているのを見た。三人とも同じ独特な軍服のようなものを着ている。この地区の自警団の服だとすぐに分かった。

「何なのっ!放せよっ!」

夜々子は腕を掴まれて抵抗している。

周辺住民は遠巻きに見ていた。

「ばあさんよお、あんた見たんだろ、どっちのガキなんだ?榊夜々子だよな?どっちなんだ!」

「どっちでも構わないさ!両方とも捕まえておくれよ!あの名前を言ったんだよ!あの忌まわしい名前をさ!」

遠巻きに見ていた住民の一歩前に出ていた一人の老婆が自警団の男の問いに答えて叫んだ。元から老婆の姿のフィギュアではない。メンテナンスもろくにされておらず薄汚れ、渦流魂の年齢も外ににじみ出ているせいなのか、すっかり年老いて見えているだけだ。

自警団の一人がトウナにも手を伸ばそうとした。フェイクスはそれを妨げようと路地から飛び出そうとしたが、

「榊夜々子はあたしだ!トウナは関係ない!それにっ、父を、甘粕斧を、汚すこと言うかっ!」

夜々子の腹部が発光し、虹色のリングとなって数百メートルは広がった。

フェイクスは本能的に危険を感じて身をかがめた。虹色のリングをまともに食らった、夜々子の腕を掴んでいた自警団の一人と、周辺住民の一部が卒倒して崩れ落ちた。

「なんだ!?渦流の光か!?」

トウナを捕まえようとした自警団の一人は地面に伏せたまま叫んだ。

動ける住民は一斉に逃げ出した。その混乱の中でフェイクスはトウナを抱え起こした。

「お、お兄ちゃん…」

「トウナ、ここから離れるんだ」

「で、でも、榊さんが!」

「フェイクス!どうしたの!」

逃げ惑う住民の流れに逆らって、ハルモがフェイクスとトウナに向かって駆けてきた。

「ハルモ!来るな!来るんじゃない!」



×  ×  ×



「貴様!今、何をした!」

夜々子の虹のリングを食らわなかった自警団の屈強な男が、無駄な正義感を発して、夜々子に掴みかかった。

「一方的なのはそっちじゃないか!」

夜々子の腹部から発したリングが今度は足下に降りて、そのリングに乗るようにして、夜々子は宙を舞って、男の動きを逸らした。

上昇した夜々子の足下から二重三重のリングが下方に流れて、その真下にいた自警団の男にまとわりつき、男は気を失った。

飛んだ夜々子は着地に失敗してよろけて膝をつく。腹部が異様に加熱しているのを感じ、思わず両手で押さえた。

「ま、また、これだ!」

「榊さん!」

フィギュアについて普通のヒトよりも多少は詳しいトウナは、夜々子の状態の異常さを心配して彼女に駆け寄ろうとした。

「だめだ、トウナ、行くなっ」

「お兄ちゃん、放してよ!」

夜々子の行為を見ていたハルモ・ルニーはフェイクスの言葉に従って、民家の影で身を潜めていたが、様子を見計らってフェイクスに近づいた。

「フェイクス!あの虹みたいの、何なの!?」

「ったく、来るなって、言っただろう!」

「用があったから、来たんだよ!もしかして、あの子が榊夜々子?あれ、自警団のヒトでしょ、なんでケンカしてるの!」

「何で知ってるんだ」

「ノキユが自警団に指示出したんだよ、配給公社への抗議の中で甘粕の名前が出たの。あの名前表に出したの榊さんだから、彼女も危ない、だから保護してくれって」

「ノキユが?ほんとか?あいつバカか!ヤクザに頼むようなもんじゃないか!なんで止めなかった!」

ハルモにノキユが止められるはずがないと思いつつフェイクスは叫んだ。

「ノキユだって精一杯なんだよ!わかってあげてよ!」

「やっていいことと悪いことがあるだろ!事実はどうだろうと、フィギュアの配給妨害、榊のせいにされるんだぞ!」

「でも!でも!」

ハルモは泣きそうになった。

「フェイクス、ハルモを責めるな。私が止めるべきだったんだ」

逃げ惑う周辺住民の流れは近くのドーム内幹線道路にまで及び、複数の車が動けず立ち往生していた。
ハルモに続いて車から降りた九重がようやくフェイクスとハルモの元へやって来たのだ。

「先生、遅いですよ!何やってたんですか!」

九重に向けたフェイクスの目は怒っていた。

そしてフェイクスとハルモ、九重の会話の隙に、トウナが夜々子に向かって走り出した。

「こらっ、おい!トウナ!」


三人の自警団を倒した夜々子は、不自由な足を引きずり逃げようとしていた例の老婆を捕まえた。

「父の名前を汚らわしいと言ったな、謝れよ!婆さん!」

元のフィギュアは10代の少女のままと思われたが、朽ち果て、今の姿はほとんど80歳代程度にしか見えない老婆に詰め寄った。

「ひえっ、放せっ、触るな!あいつの娘のお前も汚らわしい!」

「甘粕斧のやったこと、そんなに悪いことなのかよ!」

「その名前、言うんじゃないよ!何をやったのかってことは関係ないのさ!褒めようと貶そうと、口にしただけで殺される!」

「殺される!?」

その瞬間、夜々子と老婆の間に一人の老人が割って入り、手のひらで光るものを老婆の腹部に突き刺した。渦流のナイフだった。

老婆はそのまま仰向けに倒れた。

「!? な、何なんだよ!この街はっ!」

夜々子の怒りが頂点に達し、フィギュア全体が強力な光を発した。そして腹部から再び虹色のリングが広がった。
しかし、今度のリングの広がりは約1キロにまで及んだ。

老婆を刺したまま逃走した老人は倒れ、夜々子に向かって走っていたトウナも倒れた。その他、この騒ぎを見ていた周辺住民、幹線道路に逃げた住民などもその影響を受けた。

リングの波動に直接触れた者だけが影響を受けたので、住居、建物の中にいた者、地面に伏せていたフェイクス、ハルモ、九重も無事だった。

さらに、虹のリングはドームの開けっ放しになった「港」の外にまで広がったため、港の中央で資材コンテナの側で作業していた約18メートルのキグルミがコントロールを失い、膝をついて倒れた。手足を使った操作系、手動システムがまだ装備されていないキグルミだった。

ドーム外壁に取り付いていたキグルミに乗るスナフは下方でそれを見て訳が分からなかったが、とっさの判断で、

「トクパ!ギヤマ!手動システムがないキグルミを支えてやれ!」

仲間のキグルミパイロットに指示をした。すべてのキグルミに手動システムが装備されているわけではなく、通常の、渦流魂との同調型の機体の方が多かった。夜々子の放ったリングはそのキグルミのシステム自体にも影響を与えるらしかった。

「キグルミの手動システムが使える者は切り替えろ!出来ない者はその場で動くな!フィギュアのパイロットは降りた方がいい!」

スナフは虹のリング自体見たわけではなく、その影響力も分からないものの、念のための追加指示を出す。賢明な判断だった。

「スナフ、ドームの中、見てくる!」

スナフのキグルミの側にいた元素子が渦流バーニアで港に降りていった。

ドーム内に入った元素子はその惨状に愕然とした。

「まだ、警察も、救護班も来てないの?対応が遅すぎる!形だけ小綺麗に体裁とったって意味ないじゃないか!全部前衛部隊任せで!何!あれ!」

元素子は視線の先に強く光るフィギュアの少女を認めた。それがまた虹のリングを放った。

リングの意味を元素子は知らなかったが、直感で危機を察知し、とっさにフィギュアから自らの渦流魂を分離させた。

「元素子!」

港のデッキに降りて元素子の行動を見ていたスナフはキグルミをかがめてコックピットハッチから飛び降り、緊急用の渦流魂待避カプセルを抱えて走った。



「フォトンリングか。まさかこの地球で見るとは思わなかった」

ただ呆然とする九重、ハルモ、そしてやっとのことで倒れた妹のトウナを引き戻したフェイクス四人の後ろで、一人の鳥類の頭をした他の星国の中年女性が言った。

その隣に、同じく鳥頭の中年男性がいた。

「フィギュアの売り込みに来てみれば、なんてことだ」

「スカラ、運が悪かったわね。診療所だけでは無理。野外病院の準備が必要だわ。あなたたちも手伝ってくれる?」

異星の中年女性は九重たちに言った。
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http://d.hatena.ne.jp/tobofu/
でアニメ感想系まがいのことをやっていますが、こちらはオリジナル創作漫画、小説の発表用のブログです(時間がないときや事情によってはアイデア、プロットレベルのものを提示するのみ、になってしまうかもしれません)。
その他総合的なプロフィールはhttp://www.geocities.jp/tobofu/
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