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「渦流の国の少女・ 幼年期の終りという名の傲慢」(6)

何重もの虹のリング、フォトンリングを次々と発して止むことが無い夜々子は自分のフィギュアの制御が出来なくなっていた。

渦流魂と分離して地表に転がった元素子のフィギュアの側に来たスナフは、本体の元素子の渦流魂を探した。

元素子の渦流魂はスナフに頼ること無く、渦流魂独自の嗅覚のようなもので自分のフィギュアの位置を探し当て、その中へ戻った。

「まだ伏せてろ」

「わかってる。でも、何とかしなきゃ」

「俺が行って、あいつを止める。たぶんあの光、渦流魂に影響するんだろう?俺ならフィギュアじゃないから平気だ」

「でも、そうだとは限らない、危険よ」

「手動システムのキグルミを使うか?旧式の、渦流魂同調型のシルエットフレームシステムはあの光の影響を受けるが、手動なら動くらしいんだ」

「そうなの?じゃあ、お願い!」

「ああ、そこ、動くなよ!」

スナフは身をかがめてコックピットハッチを開いたままのキグルミへ走って行った。

元素子は、もしかしたらすでに事態が伝わっているかもしれないが、念のため前衛部隊の応援を呼ぼうとしたものの、フィギュア耳に内蔵されている無線機からは雑音が聞こえるだけで、連絡が取れなかった。おそらくあの光のせいなのだろう。

そこへようやくドーム武装警察の一団が夜々子に向かって、彼女を確保しようとしたが、元素子が近づくな!と声をかける間もなく、全滅した。

スナフのキグルミが立ち上がり、ドーム内の建造物と倒れているフィギュアを避けながらゆっくりと元素子の方へ歩いてきたその時、夜々子の周りに六つの黒い直方体が出現した。

各辺の比は1:4:9、同じ比率のままサイズはナノレベルから数万キロレベルまで存在し、惑星改造破壊(テラフォーミング)用にもなり自己増殖機能も持つオートマトン。全面黒色の、通称モノリス。トライアングル星雲の裁定者たちの、無限星力を内包した超越的万能デバイスである。

モノリスが出現したということは裁定者自体が動いたということを指していて、言うなれば非常事態であった。

六つのモノリスは夜々子のフォトンリングをあっさりと無効化し、電撃のようなものを放って、捕獲ワイヤーのように夜々子のフィギュアを絡め取り動きを止めた。

そしてそのままモノリスと夜々子は宙に浮き、六つのモノリスはそれぞれ直方体から薄い正方形へと変形し、夜々子の上下左右、六方を囲んだ。

「グリッドキューブ!」

元素子はそれに見覚えがあった。かつてトフボフの渦流魂、うづるさんを捕獲しようとしたものだった。

六つの正方形が捕獲対象を内部に捉えて立方体を形成しようとする。同じことを、夜々子にもしようというのだ。

が、夜々子のフィギュアは再びフォトンリングを発動して、正方形状のモノリスはそれぞれ吹き飛ばされてしまった。

そもそもモノリスは意志を持たない道具に過ぎないのだが、恐れをなしたように、吹き飛ばされて、そのまま消失した。

元素子には何故モノリスが簡単に諦めたのか分からなかったし、モノリスをはね飛ばした力が夜々子の渦流魂自体のものなのか、フィギュアの能力なのか分からず、唖然とした。

「トフボフの渦流魂の、再来なの!?」

そう、思うしかなかった。

モノリスが消え去った後、夜々子は気を失って倒れていて、あの光も発する気配が無かったので、元素子は夜々子に近づき、抱きかかえて、側に来たスナフのキグルミの手のひらに寝かせた。

このとき元素子はこのフィギュアの少女が自分の姉と同じ名前の「夜々子」であるとは聞かされてはいなかった。

ようやく落ち着いてあたりを見回すと、前衛部隊の救護班と動ける一般市民が協力し、負傷した大量のフィギュアを担架で運ぶ光景があった。
その中、元素子は見知った人物を久々に見つけた。鳥頭の異星の中年男でフィギュア造型師のスカラ・テング。家族を失った元素子を自宅に居候させてくれ、フィギュアの身体の世話までしてくれた人物だった。



×  ×  ×



フィギュア配給公社前での住民の暴動を抑えるためにドーム警察が出動したものの、抗議運動を起こした住民側は各地の自警団を呼び、自らの盾にさせた。
市民上がりで急ごしらえの警察が筋金入りの自警団に敵うはずが無く、防戦一方になった。

生徒会のメンバー、勝手に逃げ出した者もいたが、その全員を自宅に帰らせて、ノース・ノキユはフェイクスとハルモが戻るのを待たずに、暴動の現場に一人向かった。
無理を承知で暴動を止めるつもりだった。学生でありながら、ドーム社会の仕事を担った責任感が彼女をそうさせたのだが、それはノキユ自身のちっぽけなプライドの維持でしかなく、暴動の人波にまみれて、あっさりと打ち砕かれた。目前にありながら少しも近づけないフィギュア配給公社で誰かが放ったのか、火の手が上がった。

はやく、はやく火を消さないと。大事なフィギュアが燃えてしまう。

ノキユは後ろを振り返って誰かを呼ぼうとしたが、呼ぶべき人は誰もいなかった。自分が暴走気味なとき、いつも止めてくれるあの彼もいない。

もはや何のための抗議なのか分からなかった。このドーム・コミュに民主制が根付くのはまだ早すぎたのだ。村社会の意識が強く残っていたのだ。
だから、甘粕斧と呼ばれた人物は強引な手段を選んだのかも知れなかった。渦源流からも、星国の裁定者からも、自立するには住人から独裁と呼ばれたそのやり方は必要だったのかも知れなかった。しかし、それは性急すぎて誰も付いて行かなかったのかもしれない。圧倒的な反発を生んだのだろう。

ノキユは人波にもまれながらも俯瞰的に自分と甘粕斧を重ねていた。この状況でそんな冷静な考えが浮かぶなんて私、どうかしてる。

住民の反発に対して甘粕斧は何をしたのか?

すべては甘粕斧という名前が出たことが発端で広がったこの暴動だ。その人物は相当のことをしたのだ。具体的にそれが何なのかは分からないし、記録にも残されなかった。それくらいのことだ。しかし記憶には残っていて名前が出ただけで火が付く。漠然とではあったが直感ですべて理解した。

ノキユは後ろから突き飛ばされて地面に崩れ落ち、多くの人に踏みつけられた。立ち上がろうとしたが無力感がフィギュア全体を満たして腰に力が入らず立てなかった。ノキユはもう一度後ろを振り向き、手を伸ばしてそれを掴んでくれる人を探したが、そこにはやはり誰もいなかった。

意味の無いプライドをかなぐり捨てて、四つん這いで人波から抜けだし、立ち上がってフィギュア配給公社とは反対側へ駆け出した。

自分一人ではどうにもならないことは認めたが、ノキユは決して泣くまいと、そこだけの意地は残した。



×  ×  ×



夜々子のフィギュアが発したフォトンリングの影響を受けた地区側の広場に、野外病院のためのテントが設営され始めた。
ビアンミニと呼ばれた、鳥頭の異星の中年女性は仲間の医師団を呼び、倒れたフィギュアの手当のための指示を続けている。

ビアンミニに直接、しばらくすれば意識が戻る、心配ない、と言われたものの、フェイクスは、野外テント内に寝かされ、未だ気を失ったままのトウナの手を握ってその場を離れようとしなかった。

ハルモ・ルニーはそんなフェイクスが気になりつつも、野外病院を手伝ってもらうため、生徒会のメンバーに連絡し、動員をかけた。
その連絡の際、メンバーの一人が学校に戻り、ノース・ノキユが行方不明になっているのを教えてくれた。

ハルモはフェイクスに声をかけられず、九重にそのことを伝えた。
九重はフェイクスの状態とハルモの忙しさを認めて、テント設営を手伝っているスナフの操縦するキグルミの側まで行った。

「スナフ!車が使えない!キグルミで足になってくれるか!」

腰をかがめたキグルミのコックピットハッチが開いて、スナフは九重をコックピット内へ招く。

「ノキユを連れてすぐ戻る。元素子君、しばらくこの場を任せるぞ」

「はい!」

九重を乗せたスナフのキグルミは広場を離れて、渦流バーニアでジャンプし、飛んだ。


スカラ・テングはビアンミニと一緒に、夜々子のフィギュアの手当をしており、そこへ救護バッグを抱えた元素子が駆けてきた。

「外付けブースターと、渦流魂待避カプセル持ってきましたけど?」

「待避カプセルだけでいい。貸してくれ」

元素子はスカラの手にフィギュアを失った渦流魂の、一時避難用の球形カプセルを手渡し、スカラとビアンミニの後ろでしばらく佇んでいた。

通りがけのハルモに元素子はその子が例の榊夜々子だと、教えられた。

「そうなんだ。あれが、その…」


「付け焼き刃の冷却剤じゃ、フィギュアの発熱が収まらないわ…。ここままだとこの子の渦流魂、魂形を維持出来ずにフィギュアに吸収されてしまう」

「やっぱり待避カプセルを繋いでフィギュアから渦流魂を吸い出さんと、まずいだろうな」

ビアンミニはスカラの言葉が終わらないうちに夜々子のフィギュアの口を、吸引器を咬ませたマスクで覆い、カテーテルを通じ待避カプセルに繋いで吸引器を作動させた。
待避カプセルのタンクのメモリが少しずつ上昇し、渦流がカプセルに溜まっていくのを確認した。

「これで吸い出しは何とか出来るわね」

「後はお前の診療所に置いてある俺が持ってきたフィギュアに移そう。しかしな、このフィギュア…」

「心当たりあるの?」

「ある新型フィギュアのコンペで聞いたことがある。理論的には可能なシロモノだ。フィギュア、身体そのものが渦流魂増幅装置、ブースターになってる。いわばシルエットブースターだよ」

「なるほど。現象から見れば説明が付くけれど…」

「発想、設計自体は珍しくない。が、開発は許されていない。実物が存在するということはだな、噂でも聞いたが、裁定者自ら提示した高性能フィギュアのプロトタイプだ。その後すぐに提示は撤回された」

「まあ、撤回した理由はあのフォトンリングを見れば分かるけれど」

「だろうな」


「ビアンミニ先生!」

ビアンミニは他の異星の医師から呼ばれて、夜々子の側から離れた。

「じゃあ、あの子の渦流魂が特別なわけじゃないんですね」

元素子がスカラに聞いた。

「渦流魂は普通だ。特殊なのはフィギュアの方だ。なんでだ?」

「うづ…、トフボフの渦流魂かも、って…」

「ああ、あれからお前、会ったか?」

「いえ、スカラさんは?」

「いんや。会いたいか?」

「そりゃ、まあ、会いたいですけれど、この街にいたままでトフボフの渦流魂が現れたら、大変なことになります。たぶんトフボフの渦流魂と戦わされる羽目になる。それは嫌です」

「そう、だよな」

スカラは遠い目をして答えた。
それ以上元素子とスカラの会話は続かず、お互いしばらく黙ったままだった。

「そういえば、ビアンミニさんってスカラさんの奥さんだったんですね」

元素子が空気を変えようとしてスカラに言った。

「お前!何で知ってる!」

「九重先生に聞きましたよ。へへっ、スカラさん、奥さんいたんですね?」

元素子がスカラをからかった。こういうときは積極的に冗談を言う。

「あいつ、余計なことを!元だよ、元!」

「その割には仲良さげじゃないですか」

「うるさいんだよ!お前!大人には色々あんだよ!」



×  ×  ×



フィギュア配給公社に火の手が上がったことで、暴動を起こした住民たちの間に動揺が広がったのか、その動きに衰えが見え始めた。そして、冷静な者たちが呼んだか消防団が到着して、消火作業が始まった。しかし一部住民や、自警団は、やり場のない憤懣を抱えて消防団とも小競り合いになった。また、配給公社に火が付けられたことでここでの目的は果たされたと、その場の空気が錯覚されて、次のターゲットはドーム運営そのものに移りつつあった。

配給公社から逃げるように走るノース・ノキユの姿は暴動の動きとは正反対のベクトルだったから、スナフの操るキグルミのカメラで容易に捕らえられた。
九重の指示で直接フィギュア配給公社へ向かって、簡単にノキユを発見出来た。

キグルミはノキユの正面に着地してそのまま四つん這いになり、開いたコックピットから九重が飛び出した。

「ノキユ!こっちだ、乗れ!」

「九重先生!」

「スナフ、ノキユを収容したらすぐ離脱だ。こいつは目立ち過ぎる」

九重はキグルミに向かって走ってくるノキユを捉えつつ、コックピット内のスナフに叫んだ。

暴動の波から幾人かキグルミの方へ向かってきた。鎮圧部隊だと思ったのか物を投げつけてきた。また、キグルミを歓迎する者もいた。

ノキユを収容したキグルミは立ち上がり、バーニアを噴かして後方へジャンプする。キグルミから広がった風が住民たちを牽制した。

キグルミのコックピット内に入ったノキユはスナフと九重に一応礼は言ったものの、その後ずっと黙っていた。

「君のことだから、きっとこっちに来ているだろうと思ったよ」

泣くまいと決意したのに、自然と涙が流れてしまったのか、ノキユはフィギュアの目を赤く腫らし、頬が紅潮していた。自分でもそれが分かったからずっと顔を伏せていた。

やがて、

「……、…ですか?…甘粕斧のこと、先生はどれだけ知っていたんですか?」

最初は口に力が入らず言葉にならなかったので、ノキユは意識して言い直した。

「名前だけは知っていた。触れてはいけない名前だと、それだけ強く教えられた。名前以外のことは私も何も知らない」

ノキユは無言で九重に言葉を続けろと迫った。

「だから、これだけの騒ぎになるとは予想外だった。もっと強く、君を止めるべきだった」

止められても私は止まらなかった。ノキユの中で声がしたが、気持ちの矛先を九重に向けていた。

「もちろん運営は甘粕斧の過去のことを知っていただろう。しかし、彼らにとっても想定外だった。運営長は私にしてやられたといった態度さえしたよ」

そんなことはどうだっていい。

「やはり、フェイクスと君は似ているな。怒りはわかる。いくらでも憎んでくれていい。ただもう少しだけ、君たちの知恵を貸してくれないか。これは運営側からの伝言でもある」

ノキユは、この人はこの期に及んで何を言っているのか、という顔をした。

ドーム・コミュが巨大な建造物だと言っても、約18メートルのヒト型のキグルミがその内部で動くにはそれほど広くはない。

すぐにフェイクスたちのいる、野外病院のある広場へとたどり着いた。
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テーマ : 創作・オリジナル
ジャンル : アニメ・コミック

プロフィール

tobofu

Author:tobofu
http://d.hatena.ne.jp/tobofu/
でアニメ感想系まがいのことをやっていますが、こちらはオリジナル創作漫画、小説の発表用のブログです(時間がないときや事情によってはアイデア、プロットレベルのものを提示するのみ、になってしまうかもしれません)。
その他総合的なプロフィールはhttp://www.geocities.jp/tobofu/
参照。

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