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「渦流の国の少女・ 幼年期の終りという名の傲慢」(7)

榊夜々子の渦流魂を別のフィギュアへ移すため、ビアンミニの診療所へ彼女を移動させるという話を聞き、九重・ヴァン・花蓮は夜々子を人目に触れないようにするためにもその方がいいだろうと判断した。

そして、事態収拾の対処を計るために、ノース・ノキユ、フェイクス・オリジ、ハルモ・ルニーの三人に加え、もしもの時の警備役として元素子にも診療所へ来てもらうよう、九重は彼らを促したが、フェイクス一人が反発した。

ハルモがフェイクスを説得していた。

「後は勝手にやっててくれよ。トウナが心配だ。ここを離れるわけにはいかない」

「トウナさんはあたしが見てる。だからさ、フェイクスはフェイクスが出来ることをやってよ」

フェイクスは黙ったまま、動こうとはしない。

「そんなの、あたしの知ってるフェイクスじゃない!」

「お前は俺の、何を知ってるんだよ!」

「ノキユ、ノキユからも言ってよ」

ハルモは傍らで心ここにあらずといった感じでただ立っているノース・ノキユに振った。

「ハルモさん、い、いいのよ…。無理強いは出来ないわ」

ノキユはフェイクスから視線をそらし、言葉にも力が無かった。

「らしくないよ!二人とも!」

九重が三人のもとへやって来ていた。そろそろ強引にでも連れて行かないと駄目だと判断したからだった。

「らしくないって、何なんだ。大人が自分で尻ぬぐい出来ないことを俺たちがやりゃなきゃいけないことが『らしい』ってのか」

フェイクスは向かってくる九重を見た。ハルモは途中から泣き出していた。

「…悪い、言い過ぎた。ハルモに言ってるわけじゃない」

九重が声を挟もうとした時、フェイクスは腕が引っ張られるのを感じて、思わず力を入れた。

「お兄ちゃん、駄々こねすぎ」

フェイクスの腕を掴んだまま、トウナが上体を起こした。

「トウナ、まだ寝てろ」

「大丈夫だよ。やっと力入ってきた。榊さんも気になるし、あれ、ビアンミニ先生でしょ、手伝わないと」

「あの先生のこと、知ってるのか」

「うん。ワークショップの先生だよ。お世話になってる」

そう言うとトウナ・オリジは立ち上がり、まだ足取り覚束なかったが、ビアンミニの方へ向かった。

「…まったくさ、お前らは!」

フェイクスは気持ちのやり場に困ったが、いったん棚に上げるしかなかった。そしてまだ泣いているハルモに向き直った。

「すぐ泣きゃいいってもんじゃないんだよ。子供か」

「だってえ…」

フェイクスはノキユに目線を向け、ハルモの方へと動かした。その意味を察してノキユはしゃがんでハルモを宥めた。

よく出来た生徒たちだ。正直フェイクスを説得する言葉が見つからないでいた九重はホッとしていた。そんな自分がどんなに狡いかも分かっている。そうまでしてまだ彼らの手を借りなければならない辛さもあった。事態が解決出来ようと出来まいと、この借りは途方もなく大きい。はたして自分が返せるものがあるのかどうか。でも、これは必ず返さなくてはいけない、と九重は誓った。



×  ×  ×



ビアンミニの診療所は、この街が巨大な天蓋で覆われる遙か以前から存在するコミュニティー、ドーム内ではもっとも古いコミュ内に埋もれるようにあった。外部からは目新しく小綺麗に見えるこのドーム・コミュも、古いコミュの住民に揶揄されるように、いくつかのコミュの集落の上にただ巨大な蓋をしただけであって、地上のいわゆる山の手と呼ばれるような地区や、ドーム天蓋内側に何層も造成された天井区画などに比べれば「ドーム」としてのインフラの整備は遅れていた。そのため、画一的ではない歴史を感じさせる街並みの風景は多様性も想起させはしたが、ドーム運営のコントロールが届きにくい隙間も多くあって、各コミュの自治権は未だ強く残っていた。

おそらくは技術的なタブーに関わることが影響しているのかドーム内に総合病院のような施設はまだ作れず、フィギュアの病院である、診療所のような場所は切実に必要とされていた。ビアンミニの診療所も周りの街並みと同じ時間を過ごし、約三世代ほどに渡って引き継がれてきた施設であった。

榊夜々子はすでにスカラ・テングが売り込み用に持ってきたフィギュアに渦流魂が移され、病室で寝かされていた。意識が戻るまでビアンミニ自ら付き添った。助手としてトウナ・オリジが雑事を行った。トウナ自身も病み上がりで、ビアンミニからここは自分だけで充分と、休むよう言われたが働くと言って聞かなかった。夜々子のことが心配なのもあるし、何より勉強にはいい機会だったからだ。

夜々子の元のフィギュアについては、スカラ・テングが施術室で一人こもり、念入りに調べていた。

元素子は玄関内でいざという時のために待機している。事情を聞いた、診療所に看護師として長年勤める女性のサッカ・ルーネが、自発的に動き、普段から親しい近隣住民に対しそれとなく挨拶に回った。つまり口止めのためだった。

応接室で九重を交えた生徒会の三人で会議を始める少し前、フェイクスはノキユを給湯室へ誘った。少しの間誰も入れるなとトウナを見張りに付けた。トウナは深く詮索せず、すぐに察して「かしこまり!」と快諾した。


「あ、あの、な…」

誘ったものの、フェイクスは上手く切り出せなかった。別に深い話じゃない。確認だ。だが大事な確認だ。

ノキユの方もハルモを挟まずフェイクスと二人きりになるのには慣れておらず、黙っていた。

「ドーム・コミュにはいろいろ思うことはある。まあ、トウナのこともあるんだが…。それでもここは俺にとって大事な街だ。いや、違うか。俺の方が離れられないのか。とにかく、俺はここでしかやっていけない。元素子やスナフとは違うんだ。だからさ、どうあろうと、ここを守らないといけないんだよ」

これじゃ自分の事情をただ言ってるだけだ。ぎこちなく上手く言葉にならない。
からかいやけんか腰の時は平気なのに、照れが入りすぎてフェイクスはノキユの顔を見られなかった。

ノキユの方はフェイクスの態度と言葉に驚いていた。

「お前はさ、どうなんだ。生徒会長という立場じゃないお前は」

フェイクスはそう言うのがやっとだった。

ノキユはその言葉を向けられて、自分はどうしたかったのか、何も考えてこなかったのではないかという疑念が生まれて、困惑した。生徒会長という役割の先に何をしたかったのか。役割をただ演じているだけではないのか。だったら、あなたと同じ。役割を演じるためにはここででしか出来ないもの。ノキユはそう着地しようとして、それを伝えるための適切な言葉を探したが、その間のノキユの沈黙に、

「悪かったな。いいんだ。忘れてくれ」

フェイクスが強引に会話を切断しようとした。そして、給湯室から一人立ち去ろうとした。

どうして、そういう言い方するの?それで、気を遣っているつもりなの?

ノキユの中で気持ちに言葉が追いつかず、代わりにフェイクスの手を取った。フェイクスが驚いてこちらを向く。それに気づいて、自分のやったことを恥じて顔が赤くなった。

「…私も、ここでしか生きられない」

フェイクスの手を放して、ノキユは言った。本当は、この言葉の真意を伝えるためには、もっと言葉を足さなければならなかったが、ノキユにはそれが出来なかった。

これだけではフェイクスにすべてが伝わるわけではなかったが、フェイクスにとっては今このとき、この言葉だけで充分だった。



×  ×  ×



事態収拾のための会議といっても、それほど悠長にやっている暇はない。誰が仕切るのかという空気が出来る前にフェイクスが切り出した。

「まずドーム運営にはメディアで謝罪させる。それが大前提だ」

フェイクスはここで言葉を切った。そこから始めるという意思表示で、異論があれば促すためだった。

「問題は何をどう謝罪するかだが…」

誰も口を挟まなかったのでフェイクスは続けてそう言い、離れた席でメモを取っている九重の方を向いた。

「それでいい。フェイクス、続けたまえ。運営が真実を語ることはない」

「え、そうなの?」

ハルモは、フェイクスとノキユがいつの間にか元の二人の戻っているのを見て嬉しくなって、しばらく黙っているつもりだったが、思わず声を出してしまった。が、自分一人が今初めて知ったという風になったので、恥ずかしくなって再び口を噤む。

「この際事実はどうだっていいんだ。暴動を起こしてる連中が納得しさえすればいい。そのためのシナリオをでっち上げる」

「榊さんが言った甘粕斧の過去もそのまま使うしかないわね」

フェイクスの後をノキユが受けた。そして、ノキユが甘粕斧と自分を重ねて妄想した事柄も話した。甘粕斧が自分に従わない住民に対してしたであろうこと。

「それも使えるが、甘粕斧を一方的に悪者には出来ないな」

「どうして?」

「甘粕斧は不在だ。例え何処かで生きていようとこの場にいないことは確かだ。不在のヒトを悪者にしても憎悪の解消にはならない。甘粕本人はそれを『呪い』として狙ったのかもしれないがな」

そうなのだろう、とノキユは感じ入った。対象になった者は不在なのだから具体的に何らかの罰を受けるわけでもなく憎悪の受け皿が存在しない。とすれば憎悪の向かう先は散漫になりとばっちり的に飛び火する。それが甘粕斧が逆襲のために、娘の特殊なフィギュアとともにこの街に残した「呪い」なのかも知れない。

「それに、榊夜々子に被害が及ぶことは絶対に避けなきゃいけない」

甘粕斧が不在で、その娘である夜々子が実在する、となれば彼女が憎悪の対象となってしまう。ゆえに、甘粕斧を悪者には出来ない。

「とすると、運営が悪いということになるのかしら?」

「それも出来ない。もちろん謝罪はさせるんだが、奴らのプライドが許さないだろうから、連中の損になる方向には持ってはいけない」

「じゃあ、残るは…」

「裁定者が一番の悪者だ。そして、甘粕もドーム運営もその被害者」

「裁定者を悪にしたって同じことなのではないかしら?」

ノキユは拍子抜けしてついフェイクスに食らいついた。

「どうしてだよ?」

フェイクスのその切り返しはノキユにわざと言わせる節があった。

「裁定者を悪にしたら、それは甘粕斧の時代と同じことになってはしまわないかしら。相手が強大すぎて拒否反応を生む。反発が運営や私たちに向きかねない」

「俺たちには味方がいるだろ。渦源流だよ。裁定者もおいそれとは手を出せない」

「本気なの?」

「本気じゃねえよ。裁定者と戦争するわけじゃない。渦源流を味方に出来るわけもない。だが渦源流を裁定者に対する俺たちの後ろ盾にすることは出来る。出来るというか、そう思わせるんだ。暴動起こしてる奴らに。渦源流は俺ら渦流魂の生命の源でもあるんだからあながち間違いでもないだろ。思わせるじゃない、そもそも俺らはそういう存在だということを再認識させるんだよ」

それはフェイクス自身の素直な実感でもあったろうが、渦源流という巨大な存在の下に生きるすべての渦流魂のヒトに共通する実感でもある、とノキユには理解出来た。

その時、応接室のドアがノックされて、元素子が顔を出した。その後ろでスカラ・テングが元素子を急かし、元素子の言葉を待たずに言った。

「奴ら、あの娘のフィギュアを消しやがった。ちょっと目を離した隙にだ。施術室はちゃんと施錠してあったし、部屋にいたのは俺だけだ。あんなことが出来るのは裁定者の連中しかいない」

「証拠隠滅か。あいつら今の俺らの会話、盗聴してたんじゃないだろうな」

「ええっ!?」

フェイクスの言葉にハルモが声を上げた。

「榊夜々子さんの特殊なフィギュア…、というより彼女をそのまま消し去ることも出来たはずよね…」

「ノキユも怖いこと言わないで」

「あの時の盗賊も言ってただろ。裁定者も一枚岩じゃないんだ。夜々子がフォトンリングを放った時だってモノリスは逃げたんだぜ。機能的には抑えられるはずなのに。モノリスは道具に過ぎないから撤退の判断はそれを使ってる者による。渦源流への過干渉が出来ないからそうしたんだよ」

「そうね、甘粕斧の時だって、彼の反逆を知って、裁定者はモノリスを使った甘粕斧に関するデータの完全消去、記録だけではなく生き物のの記憶までも消し去ろうとしたんだわ。しかし渦源流への干渉は避けなければならなかったので中途半端に渦流魂のヒトにトラウマだけが残った。そうして甘粕斧の名前が引き金になって一部の住民にフラッシュバックを引き起こしたのかも知れない。そうでもこじつけないと、それほど昔のことではないはずなのにほとんどのヒトの記憶から甘粕斧に関する事項が消え去ることの説明が付かないわ」

ノキユは調子に乗ってそこまででっち上げて、最後はドヤ顔で言った。

「決まったな。運営は甘粕斧のことを謝罪するが、自分たちも裁定者の被害者だと主張する。そこで渦源流を後ろ盾にするからと自分たちへの協力を仰ぐ。これで榊夜々子の要望も実現する」

ここまで言ってフェイクスは再び九重の方を向いた。

「先生、これでどうですか?」

「了解だ。ご苦労だったな。あとはこちらで何とかするさ」

九重はそう言って応接室から出て行き、診療所の電話を使い、秘匿回線経由でドーム運営委員会に連絡を取った。
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テーマ : 創作・オリジナル
ジャンル : アニメ・コミック

プロフィール

tobofu

Author:tobofu
http://d.hatena.ne.jp/tobofu/
でアニメ感想系まがいのことをやっていますが、こちらはオリジナル創作漫画、小説の発表用のブログです(時間がないときや事情によってはアイデア、プロットレベルのものを提示するのみ、になってしまうかもしれません)。
その他総合的なプロフィールはhttp://www.geocities.jp/tobofu/
参照。

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