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「渦流の国の少女・ 幼年期の終りという名の傲慢」(8/終)

暴動の流れがドーム・コミュ運営委員会庁舎ビルそのものに移りつつあったとき、すでに暴動自体の熱は冷め始め、参加した住人の数は減ってきていた。それでも抗議行動という、いつの間にか自称知識人らを中心とした住人たちの扇動によってでっち上げられた行動の意思表明の根拠の維持のために、止むことは無かったから、ほとぼりが冷めるのを待つわけにもいかなかった。

九重が、これまたフェイクスたち総合校生徒会の面々によってでっち上げた謝罪ためのシナリオの骨子を運営に伝えたあと、わずか2時間ほどでドーム・コミュの公共放送、主にラジオとテレビ放送の二つのメディアによって、謝罪会見が生中継されることとなった。

その会見の場では幾人かの運営委員会のメンバーが出席し、中央には例のケープを纏った初老だが精悍で若々しい表情の運営委員長がいた。

当初の発端からすれば、何よりもまず、これは榊夜々子のための謝罪である。

意識が戻った夜々子の病室にケーブル経由で繋がるテレビ受像器を持ち込み、彼女に見せる必要があった。そして、九重、生徒会の三人、元素子とスカラ・テング、ビアンミニとトウナ、など診療所にいた者たちもその中継を一緒に見た。

謝罪会見で榊夜々子の名が出ることはない。それは夜々子が後に下手に何らかの事件に巻き込まれないために、名前を出させないという九重やフェイクス、ノキユの考えもあったのだが、主目的はドーム・コミュ住民全体に対する、市民意識の再確認であったからだった。そのために、出だしは前ドーム・コミュリーダー甘粕斧の追放に対する謝罪で始まったものの、最終的には現運営委員長の、独裁ではなく絶対民主制実現のための所信表明となった。運営委員長の口調には、期せずして、元々は同じ理想を追い求めながらやがて主張がすれ違いライバルになったらしい甘粕斧の名前がまた知られてしまったことを意識してか、改めてこのドームの行く末に自分の理想を託す、といったはっきりとした力強さがあった。

だから、夜々子の父である甘粕斧に対する謝罪はなされたものの、それは娘に対する謝罪ではなかった。しかし、妥協案として、仕方がないことではあった。

テレビ中継を無言で見る夜々子を、周りの者もその反応を注視していた。

スカラ・テングの持ってきた新しいフィギュアに移った夜々子は、黒髪ロングで大人びた外見のせいもあってか、前のフィギュアよりも清楚に見え、謝罪会見を冷めた目で眺めている、といった風であった。

会見自体の時間は短く、その後ニュースキャスターと解説役の識者による会話が延々と続き、その合間に繰り返し会見の模様がリピートされて差し込まれた。

「もう、いいです。テレビ、消してください」

榊夜々子はただ一言そう言い、その後父親について何も言うことは無かった。

夜々子の病室から人々は去り、ビアンミニは野外病院の状況を見るために出かけて、夜々子の介抱はトウナ・オリジに任せられた。ようやく多少の食事が取れるようになった夜々子のため、トウナは病中食の準備で病室から離れて、残ったのは元素子と夜々子の二人だけになった。

スカラ・テングは元素子の本当の姉の「夜々子」のフィギュアの姿を知らないはずだが、目の前の夜々子の姿は元素子の死んだ姉にそっくりだった。その偶然に驚いて、元素子は病室から離れることが出来なかったのだ。

フォトンリングを放って意識を失った榊夜々子を元素子が救出したのだが、夜々子の方は当然元素子を知らず、これが初対面だった。

「何か、用ですか?」

病室から動かない元素子が気になって榊夜々子の方から問いかけてきた。

元素子はどう話を切り出していいか戸惑った。

「亡くなった妹さんがいるそうですね」

フェイクスから聞いた情報だった。

「…名前よかったら教えてもらえますか?」

「何故?」

そうだよな。いきなりこれは失礼だ。元素子は覚悟を決めた。

「私の死んだ姉が夜々子って名前なんです」

榊夜々子はそれがどうかしたのか、といった表情をした。別に同じ名前のヒトが他にいてもおかしくない。

「妹の名前…元素子。元素に子と書いてもとこ」

「そう」

元素子には衝撃だったが、あえて平静を装った。

「それがどうかしたんですか?」

「私、も、元素子っていうんです。同じ、元素に子と書いてもとこ」

「えっ」

それにはさすがの榊夜々子も驚きを隠せなかった。

二人の間でしばらく沈黙が続いた。感動の対面とならなかったのは名前の共通性しかなかったからだ。

「父は、どんなヒトだったんですか?」

「会見で言われた通りよ。逆に、あなたは父の、何を知っているんですか?」

夜々子に逆にそう切り替えされて、元素子は言葉に詰まった。

元素子には自分の父親の記憶があまりにも曖昧すぎて言葉に出来なかった。だから、知りたかったのだ。

でも、知ったからと言ってどうだっていうのだろう。目の前の夜々子のフィギュアの姿こそ自分の姉に似ているが、中身の渦流魂は別物なのだ。昔のような姉妹関係だとも思えない。

それは榊夜々子の方だって同じはずだ。

何らかの因縁が例えあったとしても今の生活が大きく変わるわけではない。

それでも、と元素子は思った。

所詮妄想やこじ付けに過ぎないとしても、あのとき、うづるさんの渦流魂に巻き込まれて起きたかもしれない奇跡、時空が歪んで発現した生まれ変わりかもしれない奇跡を、少しは信じても良いのではないか。奇跡というものに少しは寄りかかっても良いのではないのか。

そう感じた元素子は話を切り上げた。

「ごめんなさい。ただの偶然かも知れないね。あなたの父と私の父はやはり違うみたい」

一方的な感傷を他人に押しつけることは出来ない。

「お大事にね。早く元気になって」

そういうと、元素子は病室から出て行った。

夜々子は分けが分からず、首を傾げた。

元素子は気を紛らわすため、自然と野外病院で作業しているはずのスナフの元へと足が向いていた。



×  ×  ×



謝罪会見内容がドーム・コミュの住人たちにどの程度伝わったのかはわからない。しかし榊夜々子の放ったフォトンリングの威力が噂で伝わって、裁定者に対する怖れが増したのか、暴動は一気に収まりつつあった。何とか収まってくれた、というのが正しかった。

その後、ノース・ノキユ、フェイクス・オリジ、ハルモ・ルニーの三人もいつもの生徒会の仕事に没頭した。脳天気なハルモはともかく、フェイクスとノキユは早くこの件を忘れようとするかのように何も考えずあえて忙しく働いた。

暴動を抑えるためとはいえ、真実ではなく、住人たちが望むであろう「物語」をでっち上げたのだ。騙したのである。そのことで事態は収まってくれたのだから結果的には良かったのだが、運営側の目論みに協力してしまったことがある種の後味の悪さを残した。この街で生きていくこと、選択の自由はありはしてもいずれ自分たちがこの街の為政者になってしまった場合のシミュレーションをさせられてしまったことに対する悔しさを隠しきれなかった。教育者でもある九重がそうし向けたところもあったはずなのだ。

それでも。

ただ何も気にしないでいるのか、ハルモの天性のコミュ力の高さのお陰か、フェイクスとノキユの間に入って空気を和らげ気を遣うその存在に対して、フェイクスとノキユの二人は実際に会話せずとも、本当に守りたかったのはハルモとの三人の関係ではなかったのか、と改めて気づくことが出来た。

九重先生がまたいずれ自分たちに無理難題を押しつけて来た時、今度は承知出来るものではないかもしれない。その時にはちゃんとハルモとも一緒に三人で戦おう。

そうフェイクスは思った。それはノキユも同じ考えのはずだ。



×  ×  ×



ドーム内の暴動の影響のせいで難民船の出航が遅れ、そのお陰か、榊夜々子は難民船で帰ることに間に合った。
見送りにはトウナの代わりのフェイクスと、スカラ・テング、元素子の三人が出向いた。生徒会長のノキユは相変わらず忙しかったし、ハルモはその手伝いをしなければならなかった。

「トウナさんとはもう挨拶すませてあるから。いい妹さんよね。大事にしてくださいよ、先輩」

大人びたフィギュアの外見のせいなのか、年下だったはずなのに年上に見えて、フェイクスは夜々子から窘められている気がして身の縮む思いをした。

「どうしても行くのか?」

「何ですか、もしかして引き留めたいんですか?」

そういう言い方は小悪魔的だった。

「ここは私の故郷ではあるけれど、別に住みたい場所じゃないんで」

「なるほど」

「そのフィギュアな、俺の自信作でもあるんだ。大事にしろよ」

スカラが声をかけた。

「いいんですか?あげちゃって」

元素子が言った。

「いいんだよ。設計データはあるしな。それにあの裁定者のフィギュアを使いこなせていたお前にこそおれの高機能フィギュアは相応しい」

「ありがとうございます。スカラさん」

「自慢ですか」

元素子が突っ込んだ。

「元素子さん、あの名前の話、考えたんです。真実が分かったらまたここに来ます。それまでここにいてくださいね」

夜々子は元素子にそっと耳打ちした。

「えっ」

元素子は夜々子の予想外の言葉に驚いた。そして嬉しくなった。

「ええ、待ってます!」

「じゃ、皆さんお元気で」

そう言うと榊夜々子は難民船のユニットの一つに向かって駆けていった。

難民船ユニットの天井区画では、手足に太古の艦艇のミニチュアのような大砲をゴテゴテ付けたセーラー服姿のフィギュア少女、カン・レムスが暴れ回っていて、周りの難民船の住人たちに押さえ込まれていた。

「まったく、フィギュアが変わったくらいであたしに気づかないんだから、あの大砲バカ!」
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テーマ : 創作・オリジナル
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http://d.hatena.ne.jp/tobofu/
でアニメ感想系まがいのことをやっていますが、こちらはオリジナル創作漫画、小説の発表用のブログです(時間がないときや事情によってはアイデア、プロットレベルのものを提示するのみ、になってしまうかもしれません)。
その他総合的なプロフィールはhttp://www.geocities.jp/tobofu/
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