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「渦流の国の少女・ヒトノカタチ編」 第一部「カルネアデス・スパイラル」3

全身に力が入らない。
でも身を包む毛布は暖かく、心地よかった。スカラ・テングの家でもこんなにリラックスしたことはない。いつぶりだろう。

「気がついた?」

その声とともに体に緊張が戻ってきた。声の主の姿を見ないようにして、あたりを見回す。見知らぬ部屋の、ベッドに寝かされていた。

「よく眠れたみたいね。渦流魂の気力戻ってきてるんじゃない?どう?」

しまった、と思った。知らないヒトに気をゆるしてしまった。でももう遅い。元素子のフィギュア全身を満たした彼女の渦流魂は、彼女の意識に反して気持ちよさに身を任せていた。

「あたし、陽子。名前、教えてくれないかな」

元素子が黙っていると、

「まあ、いいや。食事ここにおいとくから、ゆっくりしてて」

声の主が部屋を出て行く。出て行く瞬間、そのツインテールの後姿が見えた。

魂だけの存在になっても、フィギュアという身体を得れば、腹が減る。
渦流魂は食べ物をちゃんと消化し、栄養分を吸収した。フィギュアは血肉の身体ではないから、フィギュア自体に変化はない。体型が変わったりはしない。渦流魂に眠る太古の人間の記憶がそうさせるのかもしれなかった。確かに食することで、気力は回復した。

質素な食事だったが、同じヒトが食べるものなのだろう。スカラの家で出された食事よりはおいしかった。食べている途中で、毒が盛られている可能性に気付いたが、だったら、こんな世話は焼かれないなと思い返し、元素子は少しは気をゆるしていい、と自分に言い聞かせた。

余裕ができたので、部屋の窓の外をぼんやりと眺める。
日差しの入り方から、午前中であることがわかる。窓の外には、大人の男性、女性、子供たち、老人、とバラエティに富んだフィギュアたちがいた。

「平和なコミュなんだ…」

ぼんやりした頭のまま、部屋のドアの前まで歩く。ドアノブに手をかけ、回してみる。
回った。そのままドアを押し開け、長い廊下に出たが、上半身を廊下側に乗り出したまま、部屋から完全には出なかった。
「カギはかけられてない…と…?」
そのまま横を向くとすぐ側に見た目元素子より幼そうな少年のフィギュアが部屋側の廊下の壁に寄りかかっていた。

「見張られてたの、かな?」
少年が黙ったままなので先に元素子から冗談ぽく言ってみる。
少年は何故か顔を赤らめた。

そのとき廊下の向こうから陽子がやってきた。
「もう、和君、その人が部屋から出てきたら教えてって言ったじゃない。ちょうど様子を見に来たところだったからいいけど」

和君と呼ばれた少年は元素子の後ろに隠れて陽子に向かって舌を出した。
「もういいから、ノルフさんのところに行きなさい。畑手伝えって言ってたわよ」
「うそつき!ヨーコなんて嫌いだ!」
そう叫びながら少年は陽子が来た廊下の反対方向へ走り去っていった。

「…へ?」
よくわからなかったが、ベタすぎるほどの平和なやりとりに元素子は思わず噴出しそうになった。

「生意気盛りなのよね、子供ってほんとめんどくさい」

「あ、元素子」
「うん?」
「名前聞かれたのに答えてなかったですね。元素子っていいます。『元素』に『子』って書いて『もとこ』」

「そう、いい名前ね。ねえ、調子よくなったのなら、ちょっと外に出てみない?」



街の建物は古びていてもよく手入れされているように見えた。広い通りに並んだ商店街には、多くのヒトが行き交い、子供たちが駆け回り、屋外のテラスではテーブルを挟んでおしゃべりをしている二人の女性、ベンチに腰を下ろした老人とその付き添いらしい男性の姿も見えた。活気にあふれていた。が、そんな雰囲気に抗するがのごとく、不釣合いなのは、五体満足なフィギュアが少なかったことだった。

腕のない者、身体の欠損があっても自分で補修したらしいとひと目でわかるような粗末な義足を持つ者。五体満足でも部分的に破損したままになっている者。

部屋の窓から何となく見えた平和な雰囲気は、それでも明るく振舞っている人々の活気によってかもし出されたものだったのだ。

元素子が心の中でいだいた感想をそのまま察したような説明を、元素子の先に歩く陽子はしていた。このコミュは明るいが、ゆっくり滅んでいくのだと。陽子の言葉を元素子はあまり聞いていなかった。軽い眩暈を覚え、体がふらついた。足を踏ん張ろうとして足元を見ると、今にも消えてしまいそうな素のままの渦流魂がくるくると流れていった。
そのいくつかの渦流魂は、明らかに風に流されるような動きを見せて、弱々しかった。

眩暈の原因は「疫病神」という言葉を思い出したからだった。たとえここがゆっくり滅んでいくのだとしても、自分がいれば、早々に「端末」がやってくるだろう。自分の高純度の渦流魂を嗅ぎつけて。そしてあっさり蹂躪されて滅ぼされてしまうだろう。
“自分はどこへ行っても疫病神なんだ”

ここへ連れてこられて数時間忘れていた自責の念が蘇ってきた。
最大のトラウマは、自分の渦流魂のせいで、家族をも巻き込んで自分の生まれ育ったコミュから去らなければならないことになったことだった。そして元素子の家族は「端末」に追われる旅を続け、数々のコミュを渡り歩き、結局は父も母も姉も元素子の渦流魂の犠牲になった。

望んで純度の高い渦流魂を欲したわけではないのに。そこは自分を生んだ両親を呪ったが、すぐに打ち消し、その呪いは自分に帰ってきて自責の念がさらに増した。

たとえ、自分一人が「端末」と戦っても、このコミュを守りきれる自信がなかった。
だから、強くなりたいと思ったのだ。ひたすら強く。うづるのように。

元素子はなんとか平静を取り戻し、
「…フィギュアの造形師やメンテナンス技師の力借りれないん…」
と言おうとしたとき、陽子がそのことについての説明もすでにしていたらしいことを思い出した。魂結晶も底を尽き、造形師やメンテナンス技師を呼ぶに値するだけの対価となるものが何もないのだと言っていた。それは確かに聞いたような気がした。

代わりに何か言わなければと元素子が焦っていると、

「それでね、あなたの力を貸して欲しいの」

と陽子が後ろの元素子の方を振り向いて言った。陽子の話の全てを聞いていなかった元素子は脈略が分からず、唐突に発せられたように思えたその陽子の言葉にただ戸惑うだけだった。
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http://d.hatena.ne.jp/tobofu/
でアニメ感想系まがいのことをやっていますが、こちらはオリジナル創作漫画、小説の発表用のブログです(時間がないときや事情によってはアイデア、プロットレベルのものを提示するのみ、になってしまうかもしれません)。
その他総合的なプロフィールはhttp://www.geocities.jp/tobofu/
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