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「渦流の国の少女・ヒトノカタチ編」 第一部「カルネアデス・スパイラル」6(終)

取り乱した陽子が元素子の方を振り返る。元素子は陽子の目をまっすぐ見つめて、さきほどの星ビトとのやりとりを心の中で反芻する。それだけで陽子には伝わった。

「そんな、そんなことって…」

元素子には何も言えなかった。
何を言ったって、

陽子が叫んだ。
「何、その上から目線!」


端末に狙われるあたし、端末を操れる陽子さん。輝きすぎる渦流魂、紛い物の渦流魂。あたしと陽子さんは裏表の関係だ。

恵まれているがゆえに他人を不幸にする者と、生きたいと願っても結局は相手にされず捨てられてしまう者。

恵まれた者が不幸な者を哀れむのは傲慢な行為だろうか。

少なくとも陽子さんは反発した。もっと最低のヒトなら、平気でへつらってくるだろう。
だったら。


陽子さんを引き受けるには、自分と確かな意味のある関係を作るしかない。


「陽子さん、私のお姉さんになってくれませんか?」
元素子は唐突に言ってみた。
あまりに唐突だったので陽子は元素子の思考を読み取るのが遅れた。いや、混乱していたので心を読む余裕も無かったのかもしれない。

陽子さんと「家族」になるしかない。そして、スカラさんの所へ戻るんだ。

「あたしには帰るあてがあります。あたしと陽子さんの能力を合わせれば、『端末』からそこを守って、安全に暮らせます」

あるいはあまりの反発心から元素子の心を読むことを放棄していたのかもしれない。
「はあああ!? 何言ってんの? あんたなんかとは絶対にイヤ!」
陽子は部屋を飛び出していった。外に出た途端、陽子は驚愕した。陽子と元素子がいた建物以外、街の建物がいっさい消えていた。


陽子は本当に捨てられたんだと感じた。

部屋に戻って、陽子はすぐに床にヘタれこんでしまった。髪が乱れ、ツインテールの片方が解けていた。

元素子は陽子をベッドに寝かせて、
「行こう、いっしょに、ね」



数日、ベッドの上で毛布に包まっていた陽子だが、ようやく元素子にしたがう素振りを見せたのか、起き上がった。

「大丈夫?もう行ける?」
陽子は答えなかった。自分が捨てられたと分かった日から、陽子は口を開いていなかった。
元素子は荷物をまとめていた。まあ、まとめるほどの荷物はなかったのだが。
「ねえ、何持っていく?」
ベッドの上に座ったまま、うつむいたまま、陽子は何も答えなかった。
「髪直してあげるね」
元素子は陽子の髪を整えてやった。元々のツインテールの髪型に戻してやった。

「じゃあ、行こうか」
元素子は陽子の手を取った。意外にも陽子は素直に立ち上がった。

二人が外に出ると、二人が中にいた、このコミュ最後の建物が上から消え始めた。
元素子と陽子はその建物が完全に消えてなくなるまで、その場にたたずみ、眺めていた。


元素子の渦流魂の帰巣本能とブースターを連動させることで、スカラの工房までのルートはだいたい察しがついていた。しかし、そのためには、危険な山道を越えなければならなかった。

ヒト一人やっと通れるくらいの、左方向に回り込んだ狭い道に差し掛かった。右側は下が見えないほど高い崖になっていた。

もともとそれほど自力ではなく、元素子に引かれて歩いていた陽子の足取りは弱く、それは起こってもおかしくないことだった。

元素子は陽子の手を引っ張ってきたのだが、逆に陽子に引っ張られる形になった。
元素子は前を向いていたので分からなかったのだが、すでに陽子の両足は崖側に宙に浮いていた。


カシュッと音がした。

え、と元素子が振り向くと、崖の下に落ちていく陽子の姿があった。陽子の手には元素子の腕半分が握られていた。

オートパージの機能が働いたのだ。パージの反動で、元素子は陽子と反対方向に飛ばされ道に倒れた。そしてすぐさま道を這いずって崖の下を見た。

もう、何かが落ちていくくらいしか分からず、それが陽子かどうか判別出来なかった。
「それ」は落ちていく過程で途中何か岩にぶつかったのか、バラバラに砕けて四散した。

陽子がただ足を滑らせたのか、それとも元素子もろとも心中しようとしたのか。

分からなかった。
後者の可能性を元素子は必死に頭から追い出そうとした。

道にうつぶせのまま、呆然と崖の下を見ていると、何か光が昇ってきた。
渦流魂の光だと元素子は直感した。
パージされていない方の腕を伸ばし、元素子はその渦流魂を掴もうとした。
掴んで、陽子の渦流魂に違いないと確信した。そしてそれを愛おしむように自分の丹田の中に包み込んだ。


それから数時間、元素子はその場所に座り込んだまま動けなかった。
涙も出なかった。本当の絶望に直面したとき、ヒトは涙さえ出ないのだ、と感じた。

そのまま気を失っていたのか、朝日に顔を照らされて、元素子は目を覚まし、力を振り絞って立ち上がった。パージで失った腕はスカラの工房から持ってきた予備パーツで補い、ゆっくりと歩き出した。





スカラ・テングは元素子がいなくなってからというもの、仕事に身が入らずイライラしていた。仕事机に向かっていても、大げさなくらいの貧乏ゆすりをして、机がガタガタと大きな音をたてた。昼間は工房の内と外を出たり入ったりして落ち着かなかった。

そんなある日。
工房へ続く道の先に、スカラがよく知っている大きなシルエットが見えた。
「端末」だった。
そのそばに、一人のショートカットの髪の少女のフィギュアがいた。
少女は端末にここで待っててという仕草をして、自分だけがスカラの方に歩いてきた。

スカラはその少女の姿をみとめて、何故「端末」といっしょにいられるのか理解できなかったが、開口一番、
「この大馬鹿者が!」
と叫んだ。

元素子は哀しみをこらえながら必死に笑顔を作って答えた。
「ただいま」


                                   

                                            おわり
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でアニメ感想系まがいのことをやっていますが、こちらはオリジナル創作漫画、小説の発表用のブログです(時間がないときや事情によってはアイデア、プロットレベルのものを提示するのみ、になってしまうかもしれません)。
その他総合的なプロフィールはhttp://www.geocities.jp/tobofu/
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