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「渦流の国の少女・ヒトノカタチ編」 第二部「うづる帰還」(7/最終回)

しかし、うづるの「情」の「殻」の強度は限界に達していた。
足下からゆっくり渦流の流れが拡散し始め、「ヒトノカタチ」が崩れてゆく。

うづるの、「トフボフの渦流魂」の本性が、殻に押さえつけられることを拒否していた。


「わしらの負けのようじゃの。君に合う新しい身体の開発を考えよう。フィギュアではない、君の渦流魂がもっとも馴染む身体だ。そうだな、かつてのこの星の人間の体に近いものだ。それともそれは嫌かね?」

落ち着いた言い方だったが、それは三博士の焦りと研究対象を逃したくない欲を含んでいた。


部分的に残っていたフィギュアのパーツを吹き飛ばし、すでに頭部しか残っていなかったうづるは、首を振ったように見え、そしてその顔すらも崩れて流れていった。

うづるの渦流の拡散を防ぐために、そのエネルギーを吸い続けていた「グリッドキューブ」を形成する残り5枚のプレートも、エネルギーを吸いきれず、すべて過負荷を起こして次々に粉砕される。


完全にヒトガタではなくなったトフボフの渦流魂は、拡散した状態から渦を巻き始め、本来の姿へとまとまりつつあった。



「突入、準備!」空を見上げてカズーが叫んだ。

つられてスカラも上を見ると、真っ青な空に、無数の光が瞬いていた。カズーの仲間の渦流魂の光なのだろうか、その数はあまりに多く、密集していたので光の帯にも見えた。その光の帯は廃ビル山脈の果て、地平線の向こうまで続いていたから、リング状にこの星を取り囲んでいるのかもしれなかった。

トフボフの渦流魂は、周りの空気を巻き込んだまま回転しながら、その場に滞空している。その真下の廃ビルが回転で削られていく。

カズーはタイミングを計っていたが、他の星国の兵器と思われる高出力のビームが平行方向で走ってきた。また、反対方向からはドリル状の物体が飛んできたが、トフボフの渦流魂の回転にあっさりとはじき飛ばされ、結果、廃ビル山脈の一部を破壊しただけで終わった。


しばらく滞空していたトフボフの渦流魂の巨大な渦は、三博士とは逆の方向、元素子とカズー、スカラの方へ、廃ビル山脈を破壊しながら走ってきた。

カズーもスカラも、トフボフの渦流魂の狙いが何か、はっきりと承知していた。

「突入!」
カズーの指令で空から大量の渦流魂が、トフボフの渦流魂の上に滝のように流れてきた。

しかし、それも効果なく、トフボフの渦流魂の侵攻を止められない。

「やばいぞ!どうすんだ!」
「撤退しましょう、それしかない」
「逃げ切れるのかよ?」
「ジャンプドライブすれば、なんとか、いや、あのクラスの渦流魂だったら軌跡を読まれて追いつかれるか」
「おい!」

そのとき、トフボフの渦流魂が静止した。
目標を探しているようだった。

スカラはすぐに気づいた。
「いつの間に、あいつ!」

スカラとカズーから見て、トフボフの渦流魂をはさんだ向こう側、激しく回転させられた空気の渦越しにおぼろげに元素子の姿が見えた。


スカラは思わず叫びそうになったが、その言葉を飲み込んだ。短いつきあいだったが、元素子の性分は十分承知している。何を言っても、元素子の決意は変わらないだろう。最後まで可愛げのない娘だ。

それに、怒鳴るべき相手は別にいる。

トフボフの渦流魂が元素子に向かって後退していく。



「そうか、そこまでが実験の段階だったのか、それは非道いな」

トフボフの渦流魂、元素子、その先に微動だにしない三博士をみとめて、カズーは唾棄した。


果たして、トフボフの渦流魂は元素子のフィギュアをあっさり破壊し、元素子のフィギュアの中にあった、元素子自身の渦流魂、元素子の家族の渦流魂、陽子の渦流魂がトフボフの渦流魂に吸収されていった。

そして、トフボフの渦流魂の輝きが変化し、回転速度が下がって激しさが消え、安定したように見えた。

トフボフの渦流魂、うづるの渦流魂に吸収された元素子は、素の渦流魂に戻っても、かすかに意識は保っていた。家族と陽子の渦流魂はトフボフの渦流魂の中心核に吸い込まれて行ったが、自分は外周で流されるままで吸い込まれることがなかった。

膨大なイメージか記憶といったものが次々と元素子の渦流魂の中に入ってきたが、元素子はそれらを判別、認識する余裕もなく、やがて意識を失っていく。

一度は安定したトフボフの渦流魂だが、再び渦の回転が激しくなり、轟音とともに彗星のように渦流噴射の尾を引き、天空を目指して駆け昇っていった。

上昇するトフボフの渦流魂からかすかに小さな光が振り落とされたのをカズーは見落とさない。


「あのご老体たちも無茶なことするな」
カズーは感情を抑えながら言った。

「やっぱりお前全部知ってたのか、お前らなんてことしやがった!」
スカラの怒りも当然だと思った。

三博士が翼を広げて近づいてきた。

「違いますよ、あなたのお仲間がやったことです。僕はただの観察係を任されただけだから。まあ、『トフボフの渦流魂』を誘導したのは僕ですが」

「なに!?」

カズーは、三博士の手前、こういう言い方をしなければならない自分が情けなかった。星々の中では、支配力は少なくとも自分の星国より上なのだ。


三博士がカズーと、スカラのもとに降り立った。

「あんたら、何をやったのかわかってんのか!魂だけの存在とはいえ、生きたヒトだぞ!それを実験体に使ったのか!協定ってやつはなんだったんだ!深入りするなって言ったのは誰だよ!」
スカラは一気にまくしたてた。

三博士の一人、鳥頭の博士が口を開く。

「確かに賭けではあったがな。過去にあの渦流魂の被害にあった星国は多い。いずれ対処しなければならなかったのだ。そしてそれはまだ十分には終わっとらん」

別の、虫頭の博士が言う。
「この年になってこんな冒険をするとは思わなんだ」

「だからって元素子を巻き込むことはないだろう!」

カズーは、老人たちの言うことも一理あるが、学者としての欲もあるだろうに、老獪な欲が。と内心軽蔑しながら、三博士とスカラの会話を聞きつつ、トフボフの渦流魂が飛び去ったときに出来た、廃ビルの地表まで続く大きなくぼみの端にそって歩きながら空から落ちてくる小さな渦流魂を優しく受けとめる。

「ほら、元素子の渦流魂だ。この輝きで分かるだろう。早く身体を与えてやれ」

そう言ってカズーはスカラに元素子の渦流魂を渡す。渡すときに、よくがんばったね、と渦流魂に対して小声で呼びかける。


「そ、そうか、そうか…」
スカラはその渦流魂を大事に抱える。

そのまま三博士に向き直り、
「しかし、…俺は許さんぞ」

猿頭の博士が言う。
「結局あの二人は変わらん、ということだ。『元素子』という娘も、『トフボフ』、いや『うづる』という娘も。ただ、『うづる』が『うづる』である限り、彼女らしさを保ち続けるかぎり、何らかのきっかけでこの星をいや、他の星国さえも滅ぼしかねない。そして『元素子』は『元素子』であるかぎり、『うづる』を止める力を持っている。そのことがよりはっきり証明されたのだ」

スカラは元素子の渦流魂を抱えたまま黙っている。

「深入りするなと言ったのはな、彼女らにあまり『情』を移すな、ということなのだよ」

「さ、帰りますか」
カズーは早く三博士から離れたかった。この星から三博士を離したかった。


去り際に、カズーは独り言のふりをして言った。

「でも、『情』は移ってしまうものだと思うな。なにせ相手は『ヒト』ですからね。それが『ヒトの形』をしていればなおさらですよ。移された方もね…」

「何か言ったかね」

「いえ」


第二部、了。


                            「渦流の国の少女・ヒトノカタチ編」 おわり



補足:「トフ・ボフ」(tohubohu)

聖書の『創世記』一章二節にあるフレーズからで、ヘブライ語 tohu- は「空虚」、bohu は「混沌」を指す。欽定訳聖書に英訳例があり、「形もなく空虚なさま、混沌」の意味。

Uproar is in front, Tohubohu is in the rear.
(前途に騒動あり、混沌その背後にあり)

http://songbyriver.blogspot.com/2006/01/tohubohu.html
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