美緒の頭の中で長い回想シーンが展開されている間も、かな恵は一方的に喋っていた。
一言で言うと、自分の居場所になっていた美緒の個人ブログを何故閉鎖したのか、直接的ではないにしろ、怒っているようだった。
美緒はテーブルに肘をつき、顔の前で手を組んで、目を細くした作り笑顔でかな恵を見ていた。それは、そろそろいいかげんにしてよね、というサインだったのだが、かな恵が気づくはずもない。
『うわー、これどうすんのよ』
美緒が呆れていると、ようやくゆかりが戻ってきた。
「ごめん、さ、行こうか。あら、もう仲良くなったの?」
かな恵はいつのまにか帰ってきたゆかりに驚いて、見られてはいけないものを隠すように一瞬で黙った。
「行きましょうか、佐藤さん」
美緒はゆかりに乗っかって、意地悪く言ってみた。
何故かな恵を自分にあてがったのか。
あのお姉さんに人を見る目がないとも思えない。
またなんか企んでるんだな。
そう思いながら、美緒は前を行くゆかりとかな恵の後を付いていった。
編集部のあるビルの近場の居酒屋に三人は入った。
編集部員にはなじみの店で、他の作家さんたちも含めて飲むことが多いらしい。
ゆかりの編集長昇進祝いも、そこで行われたという。
ゆかりはこのあとも仕事があるということで、不満そうにノンアルコールビールを手にしていた。美緒はそこそこでとどめていたが、意外だったのはかな恵で、いつのまにかがんがん飲み進んでいた。顔に似合わず、酒には強いのだろう、まったく酔った風は見せなかった。むしろ酒の力のせいで、ゆかりが同席していても、ほどよく緊張が解けているようだった。
それでも、かな恵はただじっと黙ってゆかりと美緒の思い出話を聞いているだけで、二人の会話に参加することはなかった。
まだバイトの身分で、かな恵が自由に飲み食い出来たのは、ゆかりのおごりだったからなのだが、実は美緒がどういう人間なのかをさりげなくかな恵に聞かせているのだ、と美緒にはすぐ分かった。
また、美緒に対しても、いつもの手でじわじわと外堀を埋めていき、身動き取らせなくしようとしているのが分かった。10数年も付き合ってきたのだ、それくらいは簡単に気づく。ただ、いつものことだし、軽く酔っていることもあってか、面倒なので、美緒は無防備のまま受け流していた。
ゆかりはことあるごとに、さりげない「攻撃」を美緒に仕掛けてきた。
美緒はその「攻撃」から逃れることは出来なかったが、ずっとはねのけてきた。
もちろん、仕事に支障を来さない程度ではあったが、美緒にはその「攻撃」の意味がよく分からなかった。
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