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「ヒタマ」 第三章「ヒタマの事情」(その1)

その夢が異常なものと気づいた時には、すでに一週間が経っており、美緒の仕事に支障をきたすようになっていた。

そんな状態でも美緒はデビューしてこのかた、締切を破ったことがないという意地を貫き通し、何とか近い締切は守ることはできたのだが、限界なのは端からもそう見え、美緒自身も悔しいが認めざるを得なかった。

その夢は、単なる悪夢ではなく、明らかに美緒の頭をこじ開けるような強い圧力があった。

苦痛で目が覚めると、実際に誰かが美緒の頭を押し付けているわけでもなかったから、いわば「金縛り」的なものかとも思ったが、今後の仕事のこともあったので、心療内科、脳神経外科など、思い当たる診療科を受診し、あらゆる精密検査を受けた。

だが、まったく異常なし、という結果が帰ってきた。


あくまでオカルト的な興味本位のレベルでしかないかな恵が、

「先生が寝てるあいだ、何が起きてるか、ビデオに撮って見ましょうよ」

「なに、幽霊でも写るっての?」

ひとの気も知らないで、かな恵は興味津々だ。


今まで締切を一度も破ったこともなく、もちろん、これからも破るつもりはない。

それに、今では原稿自体、メール入稿で済むし、通常の打ち合わせもメールあるいは電話で済む。

なのに、かな恵はことあるごとに美緒の家にやって来た。それが、編集長になったゆかりの差し金なのは明らかだった。

その理由がかつての、美緒の弟、榊ノボルの書いた文章、そしてそれを美緒なりにまとめた小説もどきにあることもはっきりしていた。

かな恵にノボルの文章が見つかってしまうのは意外に早かった。

それはそもそも、美緒が隠そうとせず、美緒の机の上に無造作に置いておいたからなのだが、下手に隠すものでもない、と、この約10年、美緒なりに、弟の文章について結論が出ていたからだった。

そして、かな恵、さらにゆかりに対しても、いずれはっきりさせるつもりでタイミングを見計らっていたのである。


今更、あれをちゃんと小説化したって売れる訳がない、そのことは、あのゆかさんだって分かっているはずだ。なのにあの人はまだあきらめきれてない。

だとすれば、堅物の私を揺さぶりに来てるんだ。


だから、美緒にしては珍しい体の不調が、シャレにならない程度であれば、いい機会なのだろう。

美緒はやれやれ、と感じつつ、かな恵のしたいようにやらせた。


「じゃ、お休み。あとは勝手にやって」

ベッドに入った美緒に向けて、かな恵はビデオカメラをセッティングした。

「ええ、ずっと起きて見てます。何かあったらすぐ起こしますから安心してください」


3月も中旬、冬から春への変化激しく、天候不順の日々が続いていた。

その夜は、予報では、台風なみの低気圧が接近し、大荒れと大仰に騒がれていた。夕方からの美緒の家の地域では今年初めての春雷が、しだいに雨風を伴い激しくなり、いっこうに収まる気配がなかった。

激しい雷鳴の中、疲れているのか熟睡したままの美緒に変化はなく、暇を持て余したかな恵は、献本のために持ってきた小説誌を眺めようとしてバッグから取り出した。

と、小説誌に挟まっていた付録の箱が床に落ちた。

同時に、部屋の天窓が真っ白になったかと思うと間髪入れずドーン、と爆音と振動が来て、さらに部屋が真っ暗になった。かな恵はイスから転げ落ち、バクバクと胸を突き破るくらい激しい自分の心臓の鼓動に意識を持ってかれて、事態を把握するのに時間が掛かった。

身体全体を揺さぶっていた心臓の鼓動がようやく収まりかけると、まわりを見渡す余裕が生まれて、意識が戻ってきた。時間の感覚さえ奪われていたような気がしたので、どのくらいのあいだの出来事なのか分からなかったが、かな恵はイスから転げ落ちて、床に横になったままだった。


冷静さを取り戻すと、今度は外の暴風雨の轟音が耳に入ってきた。
その轟音の中に、人の、女の金切り声のようなものが混じっていたのを感じ、背筋が凍ってますます動けなくなった。

金切り声の暴風が、この家を取り囲んで吹いているように聞こえた。
やがて、風が四方から家を叩き、築数十年のくたびれた美緒の家はあちこち軋んでいた。
壁も窓もそれに耐えたが、ベッドで寝ている美緒が、

「うっ、ううう…」と、苦しそうに呻いた。

その声の方にかな恵が視線を移し、元に戻すと、かな恵の目の前、部屋の中央の空間に大きくオレンジ色の裂け目が出来ていた。

裂け目から、長いコードのような尾を引いて、両手に収まるくらいの人魂のようなものが出てきた。

丸い先端の中心はより赤に近いオレンジ色で、心臓の鼓動のように外側に向かって色の波紋が繰り返し波打っている。

かな恵は興味と恐怖がない交ぜになったままその人魂の動きを目で追った。身体は硬直しているが、好奇心が上まったのか、目だけは動いた。あるいは、本能的に、危険回避のために「それ」から目が離せなかったのかもしれない。

「それ」は、寝ている美緒の方に向かい、それに呼応するかのように美緒のうめきも激しくなった。そして、今度はかな恵の方にゆっくりやって来た。

「ヒッ」

かな恵は思わず反射的に声を上げて「それ」から身を引いたつもりだったが、声が実際出たのか体が動いたのかどうか自覚出来なかった。五感のほとんどが、自分の顔の目の前の物体をサーチしていた。
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その他総合的なプロフィールはhttp://www.geocities.jp/tobofu/
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