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「ヒタマ」 第三章「ヒタマの事情」(その2)

視覚だけでは分からなかったが、動物的な暖かみが肌に伝わってきた。
上手く形容しがたいが、体臭のようなものも感じた。強いて言えば、犬でも猫でも人間でもいいが、哺乳類の動物の赤ちゃんのような愛着をわかせるようなものだった。

視覚で想像したような心臓の鼓動か、呼吸のリズムのようなものがかすかに聴こえる。

さすがに直接手で触ることは出来なかったが、なんとなく「それ」は、いわゆるエネルギー体云々なものではなく、肉感的な「物体」として存在しているようだった。

なんとなく、であって、確証はないから、直接接触は危険かもしれず、それ以上のことは分からない。しかし、目の前の明度の低い、光のような、炎のような、揺らめく「それ」は、使える感覚から得られた情報から察するに、動物、それも人、さらに言えば人間の幼い子供に近い存在としか思えなかった。

人ならざる姿をしていたが、かな恵のわずか20数年の人生経験の上で一番似た感覚から言えば「人」としか言いようがないもの、であった。

これが「人魂」ってものなのかもしれない。

かな恵は霊的なもの、オカルトめいたものに興味はあったが、実際、「そういうもの」が見えてしまったり感じてしまうような体質でもなければ、経験も一切ない。中高生じゃあるまいし、純粋に信じているわけでもない。むしろそういうものに惹かれてしまう人間の方に興味を持つようになっていた。

すでに割り切った上での、この事態なので、正直戸惑うしかなかったのだ。
だから、確実に実在するものなのか、非実在の想像上のものなのか、いずれにせよ「人魂」という言葉が先に存在するかぎり、目の前の存在を理解しようとするならば、その言葉を当てはめるしかない。


この間、わずか数秒。人魂はかな恵から離れると、何かを探すように進み、やがてかな恵が落とした小説誌の付録の箱の上で止まった。

人魂は付録の箱を吟味するかのようにゆらゆらと滞空し、そしてその箱の中に消えていった。


すると、いきなり部屋の明かりがつき、かな恵は急激に日常に引き戻される感覚を感じたが、その感覚に遅れて体が反応したので、うつぶせの状態から跳ね起き、足が滑って逆に尻餅をついた。

意識はあったはずなのに我に返った感じだった。全身に力が戻ってきたような感覚もした。

部屋は静かで、外の嵐も止んでいた。
部屋の中央の空間に、大きく裂け目が現れたようだったが、その記憶も曖昧だ。


ふーっ、と息がする方を向くと、美緒が目を覚まし、ベッドの上で上体を起こしていた。
まだよく目が覚めてないのか、顔を覆うように目をこすったり、乱れた髪をいじったりしている。

かな恵は視線を落とすと、ベッドに沿わせた折りたたみ式の小型テーブルが見えたが、その上に寝ている美緒に向けて置いておいたビデオカメラがないことに気づいた。

そのまま視線を左に向けると床の上に転がっているカメラを見つけ、テーブルから何らかの力で吹き飛んだらしいことが分かった。


先ほどの出来事が夢のたぐいではなかったのを示すように、付録の小箱がカサカサと動く音がした。かな恵は右を向いてその音の方を見た。

かな恵はその箱の中身を知っていたから、それが勝手に動くようなものではないことを承知していた。そして、おぼろげではあったが、「人魂」がその中に消えたのを覚えている。

箱の中身の「もの」が外に出ようとしているらしかったが、かな恵は躊躇したまま、動けなかった。

と、美緒がベッドから起き上がり、迷うことなくその箱を取り上げて、ふたを開けると、ビニール袋に包まれたままのフィギュアが箱からすべって床に落ちた。

床に落ちてもビニール袋に包まれたまま、そのフィギュアはもぞもぞと動いていたので、美緒は袋を破いてやった。すると、フィギュアはなんとか袋からは這い出たものの、うまく立ち上がれないようだった。

まるで子鹿が立ち上がろうとして苦労してるみたいだと、かな恵は思った。

「なんて、出来の悪いフィギュア…」

かな恵は声がした方を探したが、ベッドの上に座った美緒が無言のまま、床のフィギュアを見ているのに気がつき、声はあのフィギュアが発したものだと分かった。

それはテレパシー的なものではなく、はっきりとした音声だった。が、なめらかではないものの、よく調教された、音声合成ソフトのような声に近く、日本語として意味はわかった。

それが本来の、フィギュアの中の「存在」の声なのか、フィギュアを通して喋っているからなのか、分からなかった。

足がふらついていたが、そのフィギュアは何とか立つことが出来た。
中学生くらいに見える、制服姿の少女のフィギュアで、最低限の間接可動式のものだった。所詮雑誌の付録なのでそれほど精巧ではない。

小説誌で今一番人気のある作品の、さらにもっとも人気のキャラのフィギュアである。
アニメの放映も始まったばかりであり、遅れてPSP用のゲームも発売予定の作品だ。

美緒の作品のキャラではない。

ちなみに美緒の作品は4~5年前の俗にアニメバブルと呼ばれた時期、作品の本数がもっとも多かった時期に中途半端にアニメ化されたことはあったが、地味に良作と評価されつつも派手に商品展開出来るようなタイプの作品ではなかったので、DVDの売り上げはかんばしくなかった。

それでも、放映局がNHKだったこともあって、現在まで何度か再放送され、認知度はアニメ化以前よりはそこそこ上がり、原作小説の売り上げに跳ね返ってきたから、宣伝としては成功といっていい。

「榊美緒さん、ですね?」

フィギュアは美緒の方を向いて言った。
初音ミク的なしゃべりと、動くはずがないものが動くという、その姿が不思議にマッチして、三次元の存在なのだが二次元キャラのままの印象を抱かせた。

これが流ちょうなしゃべりだったら、気味悪さが出てしまっていただろう。
つまり、いわば3DCG映画的な、ぎこちないロボットの動きに似て、気味悪さをほどよく打ち消していた。


「姿は違うようだけれど、あなたの名前は元素子(もとこ)でいいのかしら」

「ええ、そうです。よかった、やっと会えた。渦流(うずる)のネットがなかなか接続できなくて」


かな恵は二人のやりとりをただ聞いているしかなかった。

「まだ夢が続いてるみたいだけど、これは現実なのかな」

美緒は元素子に聞かせるように独り言とも取れる言葉を口にした。

「信じてもらえないかもしれないけど、あなたなら分かるはずです」

「そうね。今までのことを考え合わせれば、現実かもしれない。でも信用できるわけでもない」

「そう、ですよね…」

「これが夢か現実かって、ことじゃなく、あなたたちがノボルを連れ去ったかもしれないのだから、それで、信用できないってこと」

元素子という名のフィギュアはその言葉に返答出来ずうつむく。


「ノボルって、先生の弟さん…あっ、それじゃ」

かな恵はノボルの文章の中に元素子という名前があったのを思い出して、思わず口を挟んだ。

アニメかマンガかラノベのような目の前の出来事は現実なのかもしれない、と思わせるひとつの線はつながったが、まだ信じられない。

ラノベ雑誌の編集者にもかかわらず、こんな出来事は二次元の中だけにしてもらいたいという気持ちがかな恵の中で湧き上がった。

一方で、美緒にとっては、夢か現実かなど関係がなかった。

そもそも、血の繋がった家族でさえ子供の頃から不可解な存在であって、ずっと現実的な対応をしてきたのだ。

だから、目の前のしゃべるフィギュアも似たようなものであり、ノボルと関係があるものとなれば自分の抱える問題と地続きなわけで、たとえこれが夢や幻覚であっても変わらず現実的な対応をするだけだった。

十数年来、自分が追い求めて、掴めなかったもの、そしてあきらめかけていたものが、向こうからやって来てくれたのだ。夢であろうとこの機を逃すわけにはいかなかった。
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その他総合的なプロフィールはhttp://www.geocities.jp/tobofu/
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