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「ヒタマ」 第三章「ヒタマの事情」(その3)

元素子がうつむき、黙ったままだったので、美緒はベッドから立ち上がり、床で立っているフィギュアの元素子を両手で抱えてデスクの上に立たせた。

美緒の手に抱えられる時、元素子は「あっ」と声を発したがそのあとの言葉が継げなかった。そんな反応がこちらの一方的な印象ではなくて、実に「人間」らしいと美緒は感じた。

美緒もデスクのイスに座り、立っている元素子に目を向ける。

「それで、何の用かしら?」

おびえているようにも見える元素子に、美緒は意識してやさしく質問する。

「先生…」

どうしていいか分からないかな恵がまた口を挟んだが、

「あなたは黙ってて。とりあえず話を聞きましょう」

元素子は、

「あ、あの、」

とりあえず言葉を出してみたものの、なかなかその後が続けられない。

が、気持ちの整理がついたのか、やがて話し始めた。



それは、三つの「地球」に関わる話だった。


仮に、A、B、C、三つの地球があるとする。

元素子の地球が真ん中のBとすると説明としては分かりやすい。
そして、美緒たちの地球をCとする。

Aの地球は後述するとして、まずは元素子たちの地球Bの事情。


科学的な、はっきりとした確証はないが、大昔は地球Cの人間とほぼ同じであったであろう存在から、実体を持つ「魂」だけの存在となった人間が住む「地球」。

その「魂」だけの存在になった人間、ヒトを彼ら自身は「渦流魂(うずるこん)」と呼んでいる。そして、彼らの命、生命力の根源を「渦流(うずる)」と呼んでいる。

渦流魂になったヒトが、それでも人間ではない生き物に変化(へんげ)したとは認めていないのは、渦流魂は魂だけの状態では短命であり、「フィギュア」と呼ばれるかつての人間の形をした人工の身体、魂の器としての身体がなければ寿命を延ばすことが出来ないからだった。

「フィギュア」という名称や、人間の形を取らなければ命を長く保てないことから、かつては地球Cと同じような文明、文化があったことが推測できる。


渦流魂への変化は、進化なのか退化なのか、それともある種の突然変異なのか。

それは少なくとも渦流魂のヒトたちが、生存の危機を感じ、未来が見えず、かつての「人間」こそ理想の姿であり、自分たちは不自然だと思わざるをえない存在になってしまったという意識が支配的であることから、かれらは進化したとは考えてはいない。

そもそも何をもって進化、退化と呼ぶのか。
それは後生の者たちが判断することであって、変異の過程にある当事者たちには分かりようがないことだった。

この変化が、かつての「人間」たちの愚かな行為によって引き起こされたものだとはっきり分かれば、それは「自業自得」と納得、あるいはあきらめもできるだろう。

またはベタに他の星の生命体による侵略によるものであれば、分かりやすく、自らの生存の正当性を糧にたとえ不利であっても生き残る意志を持てたであろう。

だが、それらすらも不明なのだから、人類という種が確実にその生物的様態の変化から終わりの時を迎えている、いうなれば種の寿命がゆっくりと尽きかけていく中で日々生きていくことは、不安をぶつける対象も見つからず、絶望はいっそう深かった。


そして、巨大な「渦流」、「渦源流(うずげんりゅう)」と呼ばれるものが追い打ちをかける。

皮肉にも、「渦流魂」はもともとその「渦源流」から生まれ、より純度が高く育った渦流魂は渦源流の放つ「端末」と呼ばれた異形の生物によって狩られ、再び渦源流に吸収されると言われていた。

誰も渦源流そのものを見た者はいない、とされているが、端末は現実に存在し、日々端末からの逃亡、戦いが続いていたから、悠長に不安を感じずに済んでいたとも言える。

渦源流から渦流魂が生まれ、また渦源流へ帰っていくという循環が本当なのであれば、渦流の命を得た人類が新たな存在への変容のための試行錯誤の胎動なのかもしれなかった。

それが良き方向へ向かっているのか悪しき方向へ向かっているのか、いずれにせよその大きな胎動の前には、個人レベルの渦流魂の意志や感情など、あっさり切り捨てられてしまうものでしかない。


これがあながち根拠のない解釈ではないことは、地球Aと地球Bの接触があったからだ。

地球Aこそ、地球Bと同じく渦流魂のヒトの済む星であり、「渦流魂」の進化に成功した星だった。

途方もない時間をかけ、地球Aの渦源流の、かつて人間が肉体の身体を持っていた頃の記憶にアクセスすることに成功し、そこに「情の流れ」を発見して、自閉しかけていた渦源流の、情の流れを解放していった。

それには渦源流と戦うのではなく、地球Aの渦流魂のヒトびとすべてが、端末に狩られ、渦源流に吸収されることによって、情の流れに大量に集中した結果、奇跡的に起こったことだった。

そして、個々の渦流魂自体にさらなる変容が起こり、渦源流はゆっくりと外側へその内部の渦流を吐き出して解体し、それに乗っかるように個々の渦流魂たちは、意識と記憶と感情を保持したまま、フィギュアの身体も不要になり、文字通り「魂」だけで生きていけるような存在になった。

やがて、宇宙に出た渦流魂たちは、渦流の繋がりを使ってネットワークを形成した。かといって、その繋がりに縛られることもなかった。それぞれの意志で繋がり、繋がりから外れることも自由だった。

ただ、渦流のネットワークは、エネルギーやデータだけでなく、物質転送も可能なレベルに達していたため、種々雑多な異星の存在に接触した結果、それらの経済インフラとしての機能を担うようになった。

つまり、地球Aの人類は、意志と感情をもつ星間ネットワークのインフラ生命体にまで進化したのである。

感情を保持したままだったから、トラブルがないわけではなかったし、強力なインフラとして効果を発揮したため、他の星の経済活動を支配しかねないことから反発を受けたり、星間内の様々な思惑に巻き込まれたりもした。

その意味では、完全に理想的な生命体になったとは言い難いが、それはかれらだけの問題ではなく、文明文化環境レベルの違う多種多様な生命体間のコミュニケーションにトラブルが不可避なのは当たり前のことで、むしろ、姿は変わってもヒトであることを捨てなかった渦流魂のかれらはフレキシブルな対応が可能であり、そこが存在の強みでもあった。
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