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「ヒタマ」 第三章「ヒタマの事情」(その8)

約三時間後。

無線LANで繋がったプリンタがひっきりなしに紙をはき出していた。
かな恵が刷られた用紙が出てくるたびに取り、チェックしている。

ひと仕事終えた美緒はイスの背もたれ限界まで身を反らし、天井をぼーっと眺めている。
あまりに高速でキーを叩きすぎたので両手のしびれがまだ収まらず、腕をたらしたままだ。

元素子は体力温存のため、デスクの上で横になってじっとしている。

「新境地じゃないですか、これ、うちで出しませんか」
かな恵はすっかりファンの立場で感動していた。

美緒は部屋の天井を眺めながら、

「チェックに協力してもらってこう言うのもなんだけど、あくまで個人的なものよ。それに対象読者は元素子の地球の渦源流。私たちの地球の読者相手じゃない」

「でも、設定…あっちの地球では現実なんでしょうけど、それを妥協せずに誰にでも分かりやすく読ませる手腕はさすがです。もったいない。今SFでこういうのないから、こっちの地球でも受けると思うんだけどなあ」

「そうかな、ただのベタなお話よ。新境地でもなんでもない。いつものやり方。そんなに注目されるわけない。ただ、向こうの地球も同じ地球ならより普遍性を持つ物語が通じるはずだと思っただけ」

「あ、そっか、この少年と少女って、弟さんと先生そのものだから…」

かな恵はわざとらしく言ってみた。

「みなまでいわない! 何?いじめ? 恥ずかしいんだから! 自分の物語書くのなんか!」

「先生自身の物語にもなってるから新境地なんじゃないですか、みんな読みたいと思いますよ、特に編集長とか」

「まったく」

美緒は上体を前に起こし、真面目な顔をして言う。

「まあ、見せなきゃね…」



再び夜がやってきていた。
その日の天気予報は唐突に外れ、外で強風が吹き始めていた。
遠くから雷鳴が近づいている。

ニュースでは異常気象だと大げさに騒いでいた。
首都圏の交通網がマヒし、ちょっとしたパニックになっている。

かな恵がチェックし終わり、美緒が多少手直しした原稿を仰向けになった元素子に読ませている。

「本当に一回でいいの? 覚えられる?」

「ええ、時間ありませんから。大丈夫です。でも、いい話ですね。あ、ただの個人的な感想ですけど」

「でしょう?」

かな恵は得意げに言った。美緒に聞こえるような大きな声で。

美緒は聞こえてないふりをして、ミニテーブルの上でかな恵がコンビニで買ってきたおにぎりとカップ麺、という組み合わせの簡単な夕食を取っていた。


やがて外の嵐が激しくなり、昨晩と同じく豪雨に混じって金切り声のようなものが聞こえ始めると、ドーン、と大きな雷が落ち、部屋の電気が切れ、真っ暗になった。

その暗闇のなかで仰向けになったままの元素子のフィギュアがぼおっとオレンジ色のほのかな光を発している。

美緒とかな恵が部屋の中央の空間を見つめていると、予定通り、オレンジ色の裂け目が現れた。

元素子は身を起こして四つん這いになった。

「お別れね。私たちは出来る限りのことをした。あとはあなたと、あなたの地球のヒトたち次第。大丈夫、きっと上手くいく」

元素子は美緒に言いたいことがいっぱいあったが、これ以上体力を消耗するわけにはいかない。しかし、フィギュアを離れては、美緒に言葉を向けることも出来なかったから、ただひとこと、

「ありがとう」

と答えた。


「上手くいったら、結果を知りたいな。作者としては、読者の反応が気になるからね」

元素子は迷ったが、これだけは言わなければと、最後の言葉を発した。

「必ずまた来ます。いつになるかわからないけれど、必ず来ます」

「ええ、待ってるわ」


元素子のフィギュアがかたん、と倒れる。

文字通り、魂が抜けるように。

よろよろと力弱く浮遊し、オレンジの裂け目にたどり着き、裂け目の中のコード状のものに元素子の渦流魂が繋がると、元気を取り戻したかのように、力強く、発光した。

渦流魂の元素子は裂け目の手前で名残惜しそうに浮いていたので、

「ほら、早く行きなさい、私の努力を無駄にする気?」

美緒は言葉で元素子の尻を叩く。

元素子が裂け目の中に消えると、裂け目自体も消え、外の嵐も一気に収まり、部屋の電気がついた。


静まりかえった部屋で、美緒とかな恵が目を合わせ、一抹の寂しさをしばらく共有していた。

「さてと」

ベッドに座っていた美緒が立ち上がる。

「いつもの生活に戻るわよ」

と、突っ立ったままのかな恵の肩をたたく。

「仕事仕事」

と美緒はデスクのイスに座り、再びノートPCに向かう。

元素子のために、そして自分のための物語のファイルをフォルダにしまい、いつものファンタジーシリーズのフォルダを開ける。



第三章「ヒタマの事情」終わり。
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でアニメ感想系まがいのことをやっていますが、こちらはオリジナル創作漫画、小説の発表用のブログです(時間がないときや事情によってはアイデア、プロットレベルのものを提示するのみ、になってしまうかもしれません)。
その他総合的なプロフィールはhttp://www.geocities.jp/tobofu/
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