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「渦流の国の少女・ 幼年期の終りという名の傲慢」(3)

この街(ドーム・コミュ)に住んでいると、自分がフィギュアの身体を持つ渦流魂だということを時々忘れる。
渦源流からの端末という外敵の脅威は未だ存在し、端末に狩られる危険性も何ら解決されてはいない。端末と戦う前衛部隊での戦死者は少なからず、出る。
しかし、多少なりとも安全と日々の平和を手にしてしまえばそれに慣れてしまい、身体感覚レベルでの意識はどうしても弱まる。
「人間」の真似事をしているだけだということを忘れる。

「先輩って総合校の人だったんですね。フェイクス・オリジ先輩」

榊夜々子は、ある難民船団居住ユニットの一つの前を待ち合わせ場所として指定したフェイクス・オリジの周りを、両手を後ろ手で組み上体を少しかがめ上目遣いでフェイクスから視線を逸らさず、くるくると衛星のように回る。

「先輩?」

「学校は違うけど、年上だから先輩でしょう」

フィギュア自体の品の良さも手伝って小悪魔的な可愛らしさもあったが、その仕草は相手に対する索敵表現のように感じられたから、フェイクスは気を抜くつもりは一切なかった。


「早速だがな…。あの要望書のことだけど…」

「読んでくれました?」

「申し訳ないが、あの要望は通らない。済まないな」

「え?」

「教師に止められてな。生徒会が教員の指導の下にある以上、無理だ。それに、こちらの勝手な都合だが非公式な管轄でな。分を超えてる」

「それで引き下がるんだ」

そう煽ってきたか。


「甘粕斧(アマカスヨキ)でいいのか、読みは?」

「そうよ」

「榊だよな。名字が違うな」

「名字無し、ラストネーム無しなんて珍しくないでしょ。名字を使うのは別に強制されてるわけじゃない。違う名字でも同じ家族よ。私の場合は父が私を同じ名字だと知らせたくなかったからよ。知らないんですか?甘粕斧」

「知らないな。何にも教えられてない。教師にも聞いたが教えてくれない。言葉を濁された」
フェイクスはノキユから聞いた話を含めた。

「やっぱりね。父はこのドームにとっては危険人物にされてるんだわ」

「何かあるらしいのは分かるけどな、その甘粕斧がどういう人物か、分からなけりゃ動けるとしても動きようがない。例えば、余程の危険人物なら悪者に仕立て上げたストーリーを作ってでも逆に教えるだろう。だが名前すら聞いたことがない。名前すら知られたくないほど都合の悪い人物なのかもしれない。だったら余計に記録さえここから抹消されているだろう。あくまで推測だ。知らないから推測するしかない」

嘘ではなかった。正直な推測だ。ノキユに言うタイミングを逃した推測だ。

「酷い大人たちね」

「そうだろう?何でもかんでも子供にやらせる割に、自分たちは何か隠してるんだぜ」
ここもノース・ノキユの口癖を借りたが、ちょっとオーバーにおどけてみせた。

「父はこのドーム・コミュ建設計画の発案者なのよ。渦流燃料のリサイクルシステムやフィギュアの大量生産計画も父の発案。そうやって渦源流に対する防衛と同時に、星国、トライアングル星雲の裁定者たちにも対抗しようとした。でもそれは独裁だと運営委員会やコミュの市民の反発に遭って、糾弾されて、私、母や妹、家族共々ここから追放された」

「そうか」
よし、しゃべり始めたぞ。

「父のおかげで、先輩たちは今の生活があるのに」

「渦流燃料のリサイクルは実現してるが、フィギュアの大量生産はまだだな。一応配給公社はあるけどな」

「そう。それは裁定者たちに抑えられてるんだわ。渦源流が怖いから、渦流魂の私たちを進化させたくないから、タブーにして規制してる。自分たちは高度な文明を手にしていて、勝手だわ。傲慢よ」

「その話が事実だとして…いや、悪い。ドームの偉いさんに謝罪させて何か見返りが欲しいのか?」

「ただ、父に対して謝って欲しいだけ。別に何の見返りもいらないわ。残った家族は私一人だけになったから、私に謝罪してほしい」
夜々子は即答した。


「真実を知らないなら、今ここで伝えました。再び謝罪を要求します。がんばってください、先輩」

「しかし、難民船の停泊期間は確か二週間だろう。もう二週間切ってるし、間に合わないかもしれない」

「何言ってるんですか、難民船団が出発したって、謝罪があるまで私はここにいますよ?ここは私の故郷なんですから」

分かった。逆に乗せられたような気がするが、夜々子の出方は分かった。これは俺一人では無理だ。



×  ×  ×



フェイクス・オリジと榊夜々子が会って数時間後、端末の定時攻撃が始まった。その戦闘終了後、整備部の備品チェックの報告書受け取り目的で、前衛部隊キグルミハンガーデッキに来たハルモ・ルニーは、そのままキグルミのコックピット内にまだ残っている元素子を見つけた。

「スナフはもういないの?」

ワイヤータラップでキグルミの腹部に位置するコックピットまで昇ったハルモは元素子に聞く。

「ええ、待機室じゃないかな」

キグルミのコックピット内で機器の調整をしながら元素子はハルモの声に対してだけ応える。

キグルミに設置されたフィギュアの手足を使った操作系システムは、すでに出来上がった基本設計があり、裁定者側からの技術提供の許可が下りれば、すぐに取り付けることが出来て、その操作に慣れるのもあまり時間がかからなかったが、従来の渦流魂による直接操作に比べれば反応速度が若干落ちた。そのため、ドーム側で独自のカスタマイズが必要になって、ここ数日、元素子は整備部と打ち合わせをして大雑把な見積もりを出し、カスタマイズの許可申請書にまとめて、その書類をハルモにこの場で手渡した。

一方でハルモはフェイクスに言われた通り、ノキユの図書館での人力蔵書検索の仕事の話をした。

「スナフが承知するのなら別にいいけれど、そういう人使い荒いの、嫌われるよ?」

「いや、まあ、そうなんだけどさ」

話の流れで、 ハルモは榊夜々子の名を口にした。元素子経由でスナフに頼む以上、仕方がなかった。

「夜々子…。いや、なんでもない。気にしないで」

夜々子という名前に元素子が反応した。

「気にするよ!何か知ってるの?知ってたら教えてくれない?お願い!」

ハルモは手を合わせて食い下がった。情報はなるべく多い方がいい。


ノース・ノキユは人力蔵書検索の準備もあり忙しいので、ハルモはすぐにキグルミハンガーデッキまでフェイクス一人だけを呼び、二人で元素子の話を聞いた。

元素子の姉も「夜々子」という名前だということ、そして、元素子の姉の「夜々子」はすでに亡くなっていること。

「死んでるとはいえ、自分のほか家族三人の渦流魂抱え込んでたってのか?」

元素子と多少の付き合いはあるにせよ、プライベートな話でもあり、ここまでのことはフェイクスも知らず驚いた。

「あたしだけじゃなく、家族全員の渦流魂が特殊だったのかもしれない。そのあたりははっきり分かってない。でも、家族の渦流魂のおかげで今まで生き延びてこれた。逆にそれだけ力のある渦流魂を持ってるから端末を引きつけてしまいやすかったのだけれど…」

「甘粕斧って人物も、知らないんだな?」

フェイクスは要点だけを聞き出そうとした。元素子の気持ちに対する配慮もあった。もちろん前衛部隊のことも考えてあまり元素子を長く引き留めるのもまずい。

「ええ。父の渦流魂も一時期抱えていたけれど、死んだ渦流魂だし、その記憶が分かるほどあたしたち便利じゃないしね。あたし自身の父に関する記憶も朧気ではっきりしてるわけじゃないの。物心ついた時には姉と二人で、姉は戦闘が不得手だったからあたしが頑張るしかなかった」

「甘粕って名字でもなかったんだ?」

ハルモが聞いた。

「違う。あたしはこのドームに来る前から名字無しだから。仮に父が何らかの名字を名乗ってたとしてもそれについてはっきりとしたことは分からない。だからその甘粕某が本当のあたしの父親だったとしてもそれを確かめる術はあたしにはない。ごめんね、分からないことばかりで。こんなの参考にならないでしょう?」

「いや、いいんだ」

「でも、あの要望書出してきた夜々子は榊を名乗ってるんでしょ?」

「名字なんてどうにでもなるだろ。俺は親無しだが、育ての親の関係でラストネーム有りになってる。ハルモと違ってな。その辺の基準はこのドームでもまだ整理されてない。いずれ基準が出来ていくんだろうけどな。榊は、あいつは父親が娘のことを思ってわざと違う名字にしてると言ってるが本当かどうかわからん」

社会制度自体、先端を行っているはずのこのドーム・コミュでさえ、家族の制度としての統一はまだまだ進んでいるわけではなかったので、その市民である彼ら同士でもこのような会話になった。血縁関係による「家族」の概念がないために、太古の「人間」の家族の有り様や制度を中途半端に真似しようとして、さらに複雑な状況になっていた。

基本的に、親無しの渦流魂のヒトの身元引受はドーム・コミュ運営そのものだった。コミュの市民として認められれば一定の条件での生活は保障された。家族制度が曖昧な現状でその決まりは市民にとっては分かりやすい基準であり、ドームの外で生きてはいけないヒトにとっては有り難い決まりだった。

フェイクス・オリジの養父母はすでに亡くなっていて、戸籍上はオリジ家を名乗ったままだが、身元引受人はドームの運営にあった。だから、フェイクスは妹のトウナ共々、「生活」という側面でドームに人質に取られている、という見方もできた。


「そうか…。その、元素子のお姉さんの渦流魂が新しいフィギュアを得て、あの夜々子にってのはないのかな…」

「ハルモ、もう話は終わってる。これ以上は答えが出ない妄想にしかならない」

フェイクスは話を切り上げようとしたが、元素子がハルモの問いに乗った。

「トフボフの渦流魂って、知ってるよね。あれに出会って、あたしは父母姉の渦流魂を持ってかれた。あたしも巻き込まれたらしいけれど、奇跡的に助かった。トフボフの渦流魂はミニ渦源流とも呼ばれてるから、そういう可能性はあってもおかしくないし、その妄想、結構惹かれるけどね」

元素子はもちろん、そのトフボフの渦流魂がフィギュアの身体を得て、「うづる」と呼ばれたことは言わなかったし、

「えっ、元素子、トフボフの渦流魂に遭遇したことがあるの!?」

星国の裁定者によって、トフボフの渦流魂に関する情報の開示は一定範囲内で許可され、その情報をもとに教育課程で教えられていたものの、その存在は伝説級であったので、ハルモの驚きは当然であり、フェイクスにとっても単純に興味惹かれる話だったのだが、

「ハルモ、行くぞ。ありがとな」

その話はここで広げるべきじゃない、とフェイクスは判断し、元素子に礼を言ってハンガーデッキの出口へ向かった。

「あ、フェイクス、待って。元素子ありがとね!」

ハルモがフェイクスの後を追った。

元素子もその二人を目で追いながら、姉の「夜々子」が生きている可能性についてぼんやりと考えた。そんなことあるわけない。と即否定しつつ、その可能性に引きずられてしまう自分の気持ちに気づいて戸惑った。

うづるさんの力ならあり得るかもしれない。もし姉さんだとしたら。もし…。

テーマ : 創作・オリジナル
ジャンル : アニメ・コミック

「渦流の国の少女・ 幼年期の終りという名の傲慢」(2)

フィギュアという身体を得た渦流魂のヒトの社会で、学校という制度が出来たのはそれほど古いことではない。
そもそも子供の教育は親の役目であり、親無しの子も珍しくはなかったから、共同体の大人、年長者の役目でもあった。もちろん他の星国の者も共同体の成員としていれば彼らも例外ではない。

そして寺子屋のような私塾が組織され、やがて対端末群防御のための体制が整えば、戦闘員を中心とした労働力育成のための職業訓練校へと発展した。

今でも、ドーム・コミュの一般的な学校といえば職業訓練校のことを指した。

職業訓練校、義務教育課程以後の、ある程度のモラトリアムが許された総合校があるのはドーム・コミュ・スラタリアだけであり、職業訓練校とは違い、はっきりと明言されてはいなかったが、ドーム・コミュの行政にいずれ就く者を育成するための学校だった。コミュ社会全体から言えば、つまりはエリート校である。
その目的が分かりやすく見えるのは、ドーム・コミュ運営委員会の実質の下部組織である運営生徒会の存在があったからで、生徒会のメンバーは在学中からすでにコミュの行政の仕事に関わっていたからだった。

その生徒会の一員であるフェイクス・オリジの妹、トウナ・オリジは幼少時からフィギュア造型師に憧れていて、将来はその職に就きたいと考えていた。
トウナはまだ義務教育課程の身だったが、ある星国の者が主催しているフィギュア造型のワークショップにもあしげく通っていて、毎日が忙しい。
おかげで親無しのフェイクス、トウナの二人の兄妹のうち、主にフェイクスが家事仕事を担当するはめになった。


「体調崩してたんなら、早く言えよ。それなりに食事、考えただろ」

「ごめん、お兄ちゃん」

トウナはよく沸騰させた白湯をすすって、自身の渦流魂を暖めながらフェイクスが用意した食事をとっていた。少し風邪ぎみだった。

「お兄ちゃんだって忙しいんでしょ。大丈夫?」

「まあ、忙しいけどさ、俺のは他人を使う仕事だからそんなでもない。もっと自分の心配しろよ」

「うん、ありがと」

二人とも忙しく、家で顔を合わせることも少なかったから、トウナにとっては兄とのこういう時間は貴重で、気を許せて楽になるから、とても嬉しい。
でも恥ずかしいのでフェイクスにその気持ちを言うことはなかった。

「フィギュア配給公社に就職したいのか?」

「うーん、配給公社に病院みたいなのが新設されたら行ってもいいけど…」

「病院?」

「フィギュアのメンテナンス技師って半分ボランティアみたいなのばかりだから、総合病院みたいなの、出来たらいいかなあって」

「フィギュアの病院か」

「そ。その看護師とかが、理想」

「よく考えてんだな」

「そりゃ、フィギュアの勉強してれば考えるよ。フィギュアと渦流魂との相性はデリケートなんだよ。基本はオーダーメイドで大量生産に向いてない。壊れたら乗り換えればいいって言うけど、そんなに替えがすぐ用意出来るわけじゃない。だから、メンテナンス、まあ、渦流魂の状態と合わせた両方の治療をすることも考えないと」

「へえ…そこまで身体のこと考えたことなかったな」

フェイクスは妹に素直に感心した。

「考えなきゃだめだよ。って、今のあたしが言っても説得力ないか」

「まあな、俺もなんか協力できりゃいいんだけどな」

「いいよ、別に。そこまでお兄ちゃんに頼るつもない」

トウナが兄に負担をかけたくない、というつもりで言ったのは当然、フェイクスは理解していた。だけど、ちょっとは頼ってもらいたいとも感じたが、口には出さない。

「こないだだって、例の盗賊騒ぎで大変だったんでしょ?」

「ああ、あれな、死ぬかと思った」

フェイクスは冗談めかして言った。

「笑い事じゃないよ。今は難民船の仕事だっけ?」

「ま、あんときの盗賊に比べりゃ別にたいしたことでもないな」

「そうだ、うちのクラスにも難民船から一人、一時的に研修で入ってきた子がいたよ。ええと、名前なんだっけ、さかき…なんとかって子。金髪の。品のいいフィギュアだったな」

「そうなんだ」

フェイクスはトウナのその言葉だけで、それがあの手紙をよこした榊夜々子であることにすぐ気づいたが、妹には話さない。もちろん、守秘義務という建前もあるが。

それはこっちの問題だ。トウナが関わる話じゃない。



×  ×  ×



翌日。

難民船団がドーム・コミュに停泊している約二週間の間に生徒会が関わる仕事の指示がほぼ終わり、あとはその進捗状況の報告を確認、 問題発生時の追加指示をするだけだったので、ノキユたちはようやく、やむを得ず後回しになってしまっていた榊夜々子の要望の処理に集中出来ることになった。

しかし。

「甘粕…何て読むんだ。斧(おの)じゃないよな。よき、か?」

「よき、でしょうね。たぶん」

「その、甘粕斧(アマカスヨキ)がどういう人物か知らないが、ドームの最高運営委員長が謝罪することはまずありえないな。この要望書が上まで伝わるとも思えない」

「だから?」

「だから、この要望は取り下げるべきだ」

「確認もせずに取り下げるのなら、あなた一人で判断して断っても良かったでしょう。フェイクス。私とハルモさんの意見を待つまでもない。それとも一人で断るのが出来なかったのかしら」

「まあまあ」
ハルモがフェイクスとノキユを取りなそうとした。

「一人じゃ出来ないだろ。そういう部活なんだから」
フェイクスはノキユが挑発して言ったのとは違う意味で切り返した。

「九重先生と同じなのね」

「聞いたのか。九重先生に」

「聞いたわ。先生方に聞いて分かる程度ならすぐに次に動けると思ったのよ。でも九重先生はまず先に、あなたと同じで取り下げた方がいいと言ってきた。他の先生に聞いても言葉を濁すだけで教えてくれなかった」

「やっぱりそういう類いの人物なんだな。九重先生がそう言ったんなら余計にそうした方がいいだろ。俺たちが出る幕じゃない」

「でも、判断が遅くはなるけれど、確認が取れてからでもいいでしょう。運営委員会に上げるべきかどうかの判断が出来るまでは。そこまでの誠意は示さないと」

フェイクスは黙り込んだ。やっぱりノキユに見せたのは失敗だったか?やる気満々だな、こいつ。この場合のやる気って殺る気?

フェイクスが黙ったままなのでノキユは先を続けた。

「地下図書館で蔵書検索をするわ。検索チームを編成しましょう。人海戦術で行くしかないわ」

「無駄だと思うけどな」

「違うわ。私を誰だと思ってる?わざとやるのよ。目立つように」

だからなんでお前はそんなにけんか腰なんだよ。危なっかしいな。


「でも人手はどうするの?」
ハルモの素朴な疑問だった。

「スナフと彼のお友達に協力してもらいましょう」

「協力…タダで?」

「貸しがあるでしょう、私たちには。彼らに」

「え、ええっ!?貸しにしちゃうの?」

「じゃあ、ハルモは交渉な。元素子を通せばやってくれるだろ」

「ええっ!?」
ハルモは自分で振ったことがそのまま返されて戸惑った。

「俺はちょっと一人で動いてみるから」
フェイクスはそう言うと椅子から立ち上がり、部活作業のため借りていた教室から出て行った。

何なのこの二人。結局フェイクスだってやる気じゃん。でもいつもの二人だ。とハルモ・ルニーは思った。


その三人の会話を九重が外で聞いていた。
部活の時間と場所は九重に提出しているから、聞いていてもおかしくない。

「先生、聞いてたんですか。止めるなら今ですよ。っていうか、一度止めたんでしょう?あいつを。それで逆にあいつに火を付けてる」

「君だって、ノース・ノキユ君を止められなかったんだろう?」

「…ま、そうですけど。こっちが勝手にやってもあれは黙ってないでしょうよ」

「止めるべき時に止めるさ。危険だと分かったら強引にでも止める。それまであまり職権乱用は出来ないんだよ。協力出来なくて悪いが、察してくれ」

「政治っぽいことは嫌いなんですけど。子供でいさせてくださいよ。ずるいですよ」

「ここにいる限り、それは無理だな」


九重は笑みを浮かべながら去って行く。その笑みには、よくは分からないが、いろいろ複雑な意味が含まれているらしいのはフェイクスには分かったから、一方的に責めはしない。

「はいはい…そうですか」

まず何より要望を出した人間の気持ちを知るのが先決だ。榊夜々子の。

テーマ : 創作・オリジナル
ジャンル : アニメ・コミック

「渦流の国の少女・ 幼年期の終りという名の傲慢」(1)

建設途中だったあるドーム・コミュが破壊され、残された居住ユニットはホバー運搬船に牽引されて、次の定住先を探していた。
その、ユニットが長く列車状に連結された難民船団は、元素子たちの住むドーム・コミュ「スラタリア」にたどり着こうとしていた。

遠く「スラタリア」へ向けて難民船団は左へ緩やかに弧を描くように進む。
広大な瓦礫、少なくとも数千年以上、まったく復興事業もなされていない地表と正反対に、船団居住区の屋上にあぐらをかき、両腕を床で支えて背を反らしながら真っ青な空を見上げるフィギュアの少女がいた。

榊夜々子(さかきややこ)。

向かい風でその肩ほどまでの金髪を揺らしながら上体を起こし、前方に近づくドーム・コミュ「スラタリア」を眺める。

「父さん、やっと帰ってこれたよ。今度こそ…」

その夜々子の独り言をもう一人の少女のフィギュアが遮った。

「榊さん、運が良かったですね。端末の攻撃、あれだけで済んだ」

「そうね」

夜々子はそう話かけてきた、セーラー服姿で、手足に大砲やらミサイルポッドやら他にもゴテゴテ無骨なパーツを取り付けた少女に対して答えたが、余韻を邪魔されて少しムッとした。

アーマード・バックパックによる、フィギュアの上にさらに着る服としての強化外骨格なら実戦用として分かるのだが、あまりにも不格好すぎる。

「カン・レムスさん、そんな格好で平気なの?」

「だってこれしか着るフィギュアないんですもの。でも、これでも端末一機は撃破したんですよ。偉いでしょ」

「そう」

夜々子はそれ以上言葉が続かなかった。貧しいコミュではフィギュアの配給もままならない。

だからこそ、あそこへ行くんだ。あの、栄華を極めすぎているドームへ。



×  ×  ×



ドー ム・コミュ「スラタリア」側では、難民船団からの停泊要請を受け、その受け入れ処理を例によって、ドーム・コミュ運営生徒会長のノース・ノキユと、役職名はあるのだが実質雑用係のフェイクス・オリジ、そして各部署との交渉係であるハルモ・ルニー以下、生徒会のメンバーが引き受け、その準備に追われていた。
しかも形上、難民船のためのささやかな歓迎会も行うのがすでに通例になっていて、それは専門の歓迎委員会が組織されてはいたが、生徒会が彼らに丸投げというわけにも行かなかった。

難民船の住人すべてをドームへ受け入れるわけではない。人手は足りないが、居住を保障する余裕はない。だから、一定期間の停泊だけが許されていた。これが初 めてのことではなく過去に幾度と行われてきたことだから、慣習としてすでに定着していた。難民側もそれは承知の上だった。

難民側は渦流燃料やフィギュアの身体など、補給物資の配給を受ける。対して、主に金銭や労働力をドーム側に提供する。この場合直接的な労働力の提供の比重が断然大きかった。ドーム側にはない技術を持ったヒト、あるいは他の星国の者がいる場合があるからだ。

それは同時に歓迎会とは言いながら短期間ではあったが、文化交流の良い機会にもなったのだ。

難民船の住人と一緒に、取りあえず設えた仮設住宅に案内された榊夜々子は、仮設住宅エリアの脇に放置され古ぼけた目安箱が目にとまり、その前に突っ立ってしばらく逡巡していた。

そこへ仮設住宅へとりあえず宿泊することになったヒトビトのための名簿作りのため、通りかかったフェイクス・オリジに夜々子は声をかけた。

「これ、目安箱…ですよね」

「…え?」

フェイクス自身もそんなものの存在をすっかり忘れていたので、夜々子の側の目安箱らしきものをまじまじと眺める。

ドーム・コミュの外見は優先的に小綺麗な体裁を整えられつつあった。工期の進捗もほぼ順調であり、スナフを中心にあのスラブタルフィーギの盗賊からの移住者のおかげで作業は思ったより捗っていた。
そ れに比べ、ドーム内の施設は、運営委員会のある省庁やいわゆる「山の手」の富裕層の高級住宅地を除けば、下町にあたる、ドーム建設前からドーム建設のため の立ち退きを拒否し、あまりに頑固な反対運動に運営側が折れて、その古びた町並みは取り壊されずに済んでいた。しかも、下町の住人のたくましさから、その古びた長屋や蔵造りの建物は外から来る渦流魂のヒトにとっては懐かしく、また他の星国の者含めての絶好の観光地ともなり、その収入は馬鹿にはならなかっ た。

観光地化に伴い、荒れた田畑も整備され、そこそこ自立経済も潤っていた。さらにそれゆえ、ドーム・コミュ内は近代的な施設と自然環境が、お仕着せな特別な都市計画によるものでなくとも、有機的に景観が融合し、理想的な風光明媚を持つコロニーとして有名になりつつあった。

難民船のヒトビトを向かい入れる仮設住宅も、旅館だけでは収容仕切れないために、古びた空き家を利用したもので、空き家と言っても元々ドーム以前の対端末防御も考えられたものであったため、簡単な清掃と補修だけで、難民の者には立派すぎる住居で、しきりに感動していた。

その仮設住宅の側の古びた目安箱は、見た目の印象から、ドーム建設以前、さらに昔のゲーテッドコミュニティ以前の細々とした「村」の時代に設置されたものらしかった。

まあ、今更使われているとも思えなかったが、近くに人が入ってくるので使えるかもしれないな、とフェイクスは考えた。

「どうなの?」

金髪の、ちゃんとフィギュアの身体とブレザー姿の制服が別々になっている、自分と同い年か下くらいの少女はしつこく聞いてきた。難民船に乗ってきた割には小綺麗で質のいいフィギュアだった。

「ああ、何か要望があるのか?…あるんですか?」

相手が年下かどうかも分からないし、難民は一応客人なので、思わず丁寧語に言い換えた。

するとその金髪の少女は後ろ手に隠してた一通の手紙をフェイクスに見せ、目安箱に入れようとした。

「あ、いい、僕が直接受け取るよ。ここの生徒会の人間だから。その方が早いだろう?」

「そうなんですか。じゃあ、お願いします。ちゃんと見てくださいよ」

少女はフェイクスの前で前屈みになり、上目遣いでフェイクスに目を合わせて悪戯っぽく笑った。

どちらかというと女性の扱いが苦手なフェイクスは一瞬どぎまぎしたが、騙されまいと気持ちを抑えた。

さて、早く仕事を片づけて部室に戻るか。「調整部」を始めてみたものの、これもいつ解決出来るかどうか。

調整部。フェイクス、ノキユ、ハルモ、三人だけの裏生徒会ともいうべき有志による部活動。
生徒会の表の活動でやむをえず取りこぼしたものを「調整」、生徒の不満をガス抜きすることを考えたり、決まり事だけでは済まない問題を処理するもので、九重先生の何気ない発案のもと出来た部活動。

ただ、表の活動が忙しすぎる三人なので、解決の方向性と手順だけは決めて、主にハルモ・ルニーの付き合いの人脈の広さの恩恵に預かって協力してもらい、実行する部活だった。

裏生徒会と称される通り、あまりドーム・コミュの住人には知られてはいなかったが、口コミレベルで多少とも広まり、密かな駆け込み寺のような存在になっていた。

とは言っても、やはり三人は表の仕事で忙しく、依頼を受けても、依頼の数に対して処理し切れたのはほんの少ししかない。

今回の夜々子の手紙も封をまだ開けないまま、三人が揃ったのは受け取って三日後だった。


「あなたが受け取ったのだから先に開けてもよかったのに」

フェイクスから夜々子の手紙を渡されたノース・ノキユが言った。

「一応部活動なんだからそうも行かないだろ。部長のノキユが最初に見るべきだ」

「生徒会とは違うのだから、上下関係あるわけでもないでしょう?」

そう言いながら、ノキユはペーパーナイフで手紙の封を切る。

「目安箱を使おうとするなんて珍しいね」

ノキユの隣に座っていたハルモ・ルニーが、折りたたまれた手紙を開くノキユの手元を覗きこむ。

ノキユは手紙に書かれた文章をざっと眺めると、首を傾げる仕草をした。同時に手紙の文章を見たハルモもよく分からず、確認を求めようとノキユの顔を見る。

ノース・ノキユは無言でその手紙を広げたまま、少し離れた位置に座っているフェイクス・オリジに向けてテーブルの上を滑らせるように渡した。

フェイクスの視界にその文章が入った。短く、簡潔な文章だったので、眺めるだけで充分だった。


『ドーム・コミュ・スラタリア最高運営委員長殿

父、甘粕斧に対する謝罪を要求する。

以上

榊夜々子』


フェイクスは改めて手紙を手に取り、そしてテーブルの上に置いた。

三人はお互いの顔を見合わせ、しばらく無言の間があった。誰が一番先に発言するか、お互い待っているようだった。

「どうするよ」

フェイクスが口火を切る。

「と、匿名じゃないってことは本気なのかな…」

ハルモは焦れったくなってノキユの言葉を待つ。

「確認しなければならないことがたくさんありそうね」

テーマ : 創作・オリジナル
ジャンル : アニメ・コミック

「渦流の国の少女・スラブタルフィーギの襲撃」(12/最終回)

九重・ヴァン・花蓮はドーム・コミュ運営委員長の執務室へ呼ばれていた。

九重自身は、コミュの上層部にコンタクトを取ることを半ば諦めていたので、拍子抜けしたと同時に、いつの間にか、自分の行動が監視されていたからかもしれない と感じて身が震えた。しかし、彼女にとっては向こうから与えられたチャンスでもあった。気がかりなのは、元素子と生徒会の面々ではあったのだが、この機を逃すわけには行かなかった。

ケープを纏って、制服だけで部下に威圧感を与えないような無駄な装飾がなく身の軽さを連想させる身なりの、初老近い人物だった。事が起きれば、部下に任せず、自分から行動するタイプのようだ。

「あの二人の少年、スナフとハッカーニとか言ったか。君は何故彼らに拘るのかね?」

物腰の柔らかい言い方だったが、核心は突いてきている。

「あの二人の体内には、小型ですが強力な爆弾が仕掛けられていました。ハッカーニの方はドームに着く前に爆破されたようですが、スナフはそのままでドーム内で爆破される危険性がありました」

「ただ、彼の爆弾は無事処理出来たのだろう?このドームの警備体制は万全だよ、気に病むことはない」

「その後、あの盗賊の手で次の人間爆弾が送り込まれたらどうするのです」

「九重君、建前は無しにしよう。何が聞きたいのかね」

「そうですか…それでは、すでに死亡していたハッカーニを検死後も何故解剖する必要がありましたか?」

「『人間』の末裔の可能性、その証明、とでも答えれば満足するかね?」

「どうだったのです?」

「残念ながら、確証は得られなかったよ。裁定者たちに照合を求めた結果、君も一般的にもよく知られている星国の者たちの遺伝子コードと一致した、と言ってきた。そういうことだ。いずれ、メディアで公式発表がなされるだろう」

九重は黙っている。

「以上だ。下がりたまえ」

九重は引き下がるしかなかった。



「ここは我々の狩り場である」とでも宣言するかのように現れた本物の端末群の登場で、盗賊の船団はさらに混乱したが、大半の者たちの考えることは同じで動ける地上船のほとんどが一斉に後退し始めた。端末の狙いはもちろん盗賊ではなく、渦流魂のヒトで、元素子たちと、ドーム・コミュ前衛部隊がこの場に集まったのを察知したからだ。そして、時刻から言えば、元素子と前衛部隊を狙いながらそのままドーム・コミュを襲撃する定時攻撃のタイミングでもあった。

元素子はスナフを抱えながら、渦流噴射のジャンプを繰り返し、端末から逃げ続けた。途中、前衛部隊がたどり着き、端末の動きを牽制してくれた。

ドー ム・コミュ前衛部隊随一のエースパイロットであるガゼル・クランカランはキグルミの渦流バルカン、ライフル等の飛び道具を牽制、攪乱攻撃のみで使い、手前に迫った端末をキグルミの腕で直接殴り、その衝撃で横倒しになって転げ回った端末の腹を踏み台にしてジャンプし、後方の端末に向けて今度は足で蹴りを入れた。

「ここで端末を阻止する!長くは続かない!時間を稼ぐだけだ!無理はするな!」

ガゼルの部下たち、キグルミの格闘戦に自信のある者はガゼルの戦い方を真似て端末を各個撃破していく。そうでない者は援護射撃に回った。

援護射撃の渦流弾は、端末の表面で盗賊が使った突撃部隊のカカシのバリアと同じく弾かれたが、拡散された流れ弾は動かず放棄された、渦流弾バリアのためのコーティングが完全にはなされていない盗賊の地上船をさらに破壊して、船のエンジンの連鎖爆発が端末群の流れを遅くした。

スナフを抱えたまま何十回もの渦流噴射を繰り返し、フィギュアの身体であろうとさすがに疲れが見えてきた元素子はようやく目前で停止している奴隷船に取り付くことが出来た。フェイクスたちが止めてくれたのか、偶然止まったのか分からないが、最後のカスカスの噴射で甲板の上に降りた。

「スナフ、走って!残った仲間を助けるんでしょ!」

元素子は意識が朦朧としたままのスナフの手を引いた。スナフはヨロヨロと元素子に付いて、甲板の上で尻餅をついたかのような格好のキグルミに向かって走った。

キグルミのコックピットハッチは開いていて、中でハルモ・ルニーが泣きじゃくっていた。

「フェイクスのバカ!ノキユと行っちゃって、一人で怖かったんだから!」

フェイクスはわかったわかったとハルモの肩を抱き、なだめ、ノース・ノキユはハルモの背中をやさしく撫でていた。

そのコックピットの奥には一人の異星の男がいた。負傷していて、取りあえずの応急処置はされているようだ。

「フェイクス!」

「元素子か」

「そいつは?」

「こいつのおかげでこの奴隷船を止められたんだがな。あの盗賊の戦艦の艦橋にいた奴だよ」

「盗賊の女に撃たれた男よ。生きてたのね」

ノキユが補足した。トリティーラ・スロウという名の男であることを元素子たちが覚えているかどうかは定かではない。

「いいの?敵でしょ?」

「利用価値はあるだろう。こんどはこっちの人質になってもらう」

「人質でも何でもやるさ。俺はこんなところで死にたくないんでな」

苦しそうな息をしながらトリティーラは答えた。

「船は止められたけれど、もう動かせないわね。スナフの仲間はどうしたらいいかしら」

「ガゼル教官から聞いた。ドーム・コミュ前衛部隊の運搬船がもうすぐ来てくれる。それで運ぼう」

元素子はそう言いながら、スナフをトリティーラの横のシートに寝かせた。

そして運搬船の到着と、端末の定時攻撃が終わるのを待った。もし、端末が前衛部隊のガードを突破して、こちらにやって来たら、元素子一人がフィギュアの身体で戦わなくてはいけなかったが、運が良かったと言うべきかそういう事態にならずに済んだ。



冷静に見えて負けず嫌いの、ドーム・コミュ運営生徒会長のノース・ノキユは、あの盗賊のボスの女に舐められたこと、威圧感に自分が負けてしまったのが余程悔しかったのか、そのことがバネになって後処理の指揮を自ら執り、ドーム・コミュの運営委員会に直接、スナフと彼の奴隷扱いされた仲間、盗賊で渦流燃料販売に関わっていたトリティーラ・スロウ、また、戦場で逃げ遅れて行き場を失った盗賊の者たちのドーム・コミュへの身柄引き取りを要求した。特にトリティー ラ・スロウの握っていたスラブタルフィーギ盗賊の渦流燃料商圏の一部をドーム側が接収することになるのだから、ドーム運営にとっても悪い話ではない。前衛部隊が倒した端末からの渦流魂の回収も忘れてはならない大事な仕事であり、ノキユの指示のもと、元素子が指揮を執った。

さらにスナフの強い要望で、墓標ベースにスナフの死んだ仲間も一緒に弔われることになった。端末からの渦流魂回収後、元素子や前衛部隊によって遺体捜索が行われ、フェイクス、ハルモ・ルニーも協力した。

スナフは死んだ仲間全員の名前を覚えていた。




盗賊スラブタルフィーギのドーム・コミュ襲撃から約三週間が経とうとしている。

ドーム運営生徒会の定例会議の後、比較的広い教室内で、ノース・ノキユ、フェイクス・オリジ、ハルモ・ルニーの三人だけが残っていた。

「そう、まだ元素子さんはスナフに協力しているのね」

「協力と言うより、スナフがキグルミ使って働いてるのを見守ってる感じかな。スナフ、だいぶ元気になったみたい」

整備部との交渉役であるハルモはそこで働くスナフの元へ通う元素子と話す機会も多いのだろう。スナフはノキユの提案が通って自分でも使える操作系の付与が裁定者から許可されたキグルミを操縦し、破壊されたドーム外壁の補修を手伝っていた。

「元素子、スナフのこと、気に入ってんだな」

フェイクスは特に意味もなく、何となく言ってみた。

「うーん、ちょっと違うかな」

「どう違うんだよ」

「スナフは自分に似すぎてるんだって。自分を責めすぎるところがあるって。だから、惹かれるけれど、付き合ってもお互い駄目になるかもしれないし、あまり深入り出来ないって。でも気にはなるからスナフが一人でやってけるまで見守ることくらいは出来ないかって、言ってた」

「そう」

「そうなんだ。まあ、俺にはそういうの、よくわかんねえけどな」

「え、わかんないの?わかってよ」

「ハルモさん、何を言っているのかしら?」

そのノキユの言葉はハルモに対する牽制である。



その後、何となく三人一緒に帰宅する流れになったが、途中で九重・ヴァン・花蓮と出会い、フェイクスだけが九重に呼ばれ、ノース・ノキユとハルモ・ルニーの二人だけが先に帰った。

「いや、君が今回の件、どう感じたのかと思ってな」

九重はフェイクスをドーム外縁のテラスに誘い、遠く広く瓦礫の荒れ地が続く先に夕日が沈むのを見ながら言った。

「どうも何も、一介の学生ですからね。感じたものがあったってどうにもならないでしょう」

「そうか?」

「そうですよ。元素子とも、スナフとも違う。あの二人の事情は詳しくは知りませんし、知ろうとも思いませんけど、でも俺はここじゃないとやってけないですよ」

「そうか…。では、君一人の問題じゃなくなった時、もしもの時には、生徒会の連中を説得して、私に協力してくれるか?君は避けていたくても、当事者になるかもしれないんだぞ?」

「…先生、何考えてんですか?」


フェイクスには九重が言わんとしていることが漠然とだが分かった。このドーム・コミュの組織で生きていくことの煮え切らなさが自分にもあったからだ。
そのことをノース・ノキユにも確認してみたかったのだが、なかなか切り出せないでいた。だから割と直接的に聞かれても答えようがない。

「ん、ま、その時はその時だが、考えておいてほしい」

そう言って九重・ヴァン・花蓮はテラスからドーム・フロア内に戻って行った。


フェイクスはただ黙ったまま、九重を見送るだけだった。

テーマ : 創作・オリジナル
ジャンル : アニメ・コミック

「渦流の国の少女・スラブタルフィーギの襲撃」(11)

最も古い記憶は怖いほど膨大な数の星が瞬く夜空を背景に、天の頂へと昇るいくつもの光の筋。
それは地上から自分たちの手の届かない距離にまで駆け上がって去って行く宇宙列車を連想させる。
膨大な数の星々は、そんなにも膨大な数の存在が自分たちをただ見ているだけで、何の手助けもしてくれないのだ、という自覚を幼少のスナフに強烈に植え付けた。

宇宙列車も自分たちをただ捨てて去って行くように見える。

実際に捨てられたかどうかは定かではないが、その思い込みは、スナフの中で、誰にも頼らず、自分たちだけで生きていかねばならない、という刷り込みに変わる。

圧倒的に美しくそして神聖さというよりはそれを見上げる者たちにとって冷たさを伴った夜空とは反対に、瓦礫に埋め尽くされた地上では、スナフたちがいる暗い穴蔵から見える、別の同じような穴蔵に向けて光が放たれて、その光の筋が舌となって穴蔵をなめ回すたび、青白い光の玉がいくつも舞い、それに照らされた地面をヒトノカタチをしたもの、不完全なヒトノカタチ、元からヒトノカタチからほど遠いものが這い出て、光の舌を放った主から逃げ惑う。

光の舌の主の、その回転する三つの光のうちの一つが口となって、穴蔵から掻き出され、舞った光の玉を吸い込み終わると、再び口から舌を出して今度は穴蔵から逃げ去ったヒトノカタチをしたものも逃がさず捕らえる。ヒトノカタチが砕けて、そこからも同じ青白い光が現れて、光の舌の主の口に吸い込まれていく。光の舌の主の体内に無数の光が渦巻き、その流れが暗闇の中で光の舌の主の瓢箪あるいは洋ナシ型のシルエットを露わにした。

それが「端末」と呼ばれている存在であること、ヒトノカタチが「フィギュア」と呼ばれていることを、至近の穴蔵でただ見るだけの彼らはもちろん知るはずもないし、知ることになるのはずっと後のことだ。

この今はただ、いつかはヒトノカタチのフィギュアと同じく、自分達も狩られるのではないかと、光の舌を放つ魔物に怯えていた。

スナフは本能的にあの魔物には近づいてはいけないと感じていた。ハッカーニは狩られる恐怖から死ぬまで自分たちとフィギュアとの区別がつかなかった。しかしキルスは、スナフとハッカーニの制止を振り切り、端末の内部で渦巻く光に惹かれて、端末に向かって走り出す。そして、端末群が去って荒らした土地に倒れたままのキルスをスナフとハッカーニが見つけたとき、キルスは魂が抜かれたようだった。

きっとキルスはあの時、本物の「カカシ」、「端末」の中で渦巻く魂の光に惹かれて、フィギュア人間たちの言う「魂」とは別の「魂」を狩られたのだ。いや、違う。本物の「端末」はキルスの「魂」なぞ相手にしなかったのだ。キルスの「魂」が勝手に、「端末」について行ったのだ。

キルスの内面が見えない以上、スナフは想像力でそう補完するしかなかった。そんな想像が、スナフの心の中、「魂」の中で渦巻いた時、スナフは泣いていた。だが、それが当たっているかどうか誰にも分からないし、結局はスナフによるキルスの内面のねつ造でしかなく、共感もされないだろうから、スナフの流した涙も、勝手な代償行為でしかない。その思いは誰も慰めてはくれない。それも承知しているから誰のための涙なのかも分からずそれゆえ涙が流れ続ける。

それとも、元素子に話したら彼女は分かってくれただろうか?

でも、今はお互い別々の機体にいることが有り難がった。



「聞こえる?スナフ!どうしたの!開けて!」

もはやキルスではなく、自身の行き過ぎた想像力相手に格闘して、ただ閉じて泥沼に落ちていくだけのスナフに向けて元素子の声が何度も何度も放たれた。

元素子はスナフからの返答がないので、半渦流魂状態のフィギュアのままでキグルミのコックピットハッチから飛び出し、カカシの背中を渦流弾で撃つ。しかし、カカシの表面にコーティングバリアされた皮膜が渦流弾を弾いてしまう。

「スナフ!ハッチを開けて!開けなさい!」

スナフは元素子の言葉にすがるように、コックピットハッチの開閉スイッチを押した。

カカシのコックピットハッチが開いたと同時に元素子は中に滑り込んだ。

「スナフ!」

元素子は声をかけるが、スナフは気絶していた。

「フェイクス、キグルミを下の奴隷船に降ろすわよ!その後、渦流魂の接続を切るから!」

「そっちはどうなってんだよ!」

元素子は返答することなく、カカシを掴んでいたキグルミの手を離した。そしてキグルミのバーニア渦流噴射で落下速度の軽減と姿勢制御を行い、奴隷船の甲板に着地させた。

着地した途端、元素子が渦流魂を自分のフィギュアに戻したので、キグルミが足を滑らせる。

「力を回せ、踏ん張れよ!」

代わりにフェイクスがキグルミを着るしかなかった。

「無茶言わないで!ブースター代わりなんか、出来ないよ!」

そう叫んだハルモ・ルニーと、ノース・ノキユの二人が悲鳴を上げた。

フェイクスは無茶は承知でキグルミを動かそうとしたが、土台になっている奴隷船自体が迷走していて足場が安定しない。

キグルミ自体がキルスに破壊された艦橋正面まで滑りぶつかってようやくキグルミの動きを止めた。

「ふう、あいつの言った通り、やっぱりこいつに手足を使った操縦系は必須だな。訓練次第だって言っても魂に頼りすぎだろ。ノキユ、ドームに戻ったら提案してくれないか」

「ええ、そのつもりよ。その前にこの船もなんとかしないと」

「わかってる。ちょっと待ってくれ。はあッ」

負荷の大きいキグルミから渦流魂をフィギュアに戻したフェイクスは息を整えつつ答えた。

「ブリッジがやられてしまったから、直接、エンジンを止めるしかないわね」

「そうだな。同じ渦流燃料を使うんだ。システムはドームの運搬船と同じだと思うけどな」



一方、元素子は気絶したスナフの横でカカシの操縦を試みたが、

「不時着させることが出来ればと思ったけど、無理だな…」

コックピット内に元素子とスナフ二人を乗せたカカシは、キルスのカカシの左側を擦り抜け、右へ大きく旋回しながら地表に落下しつつあった。

元素子は仕方なく、カカシからスナフを抱えて飛び降りる。地表に落ちたカカシは大破した。

気絶したままのスナフを抱えたまま地表に降りた元素子は、二人を見つけたらしい、前方から来るカカシに対して気を張った。そしてまだ使えそうな武器を数えながら戦闘態勢に入った。

あのキルスに自分は勝てるだろうか。あるいは逃げ切れるか。

キルスのカカシは元素子とスナフの目前で止まった。

「キルス…」

「スナフ?」

スナフが目を覚ました。そして、

「元素子、僕を殺してくれないか」

「えっ、何言ってるの!」

「いいから!」

元素子はフィギュアの手のひらから渦流の粒子を排出してナイフ状に変形させて、それをスナフののど元に突きつけた。
本当に殺すつもりではない。スナフが頑固なのでフリのつもりでしたことだった。

カカシからキルスが慌てて出てきた。ゆっくりと元素子とスナフのもとに歩み寄った。ただ、その表情には困惑の色が浮かんでいる。身体が勝手に動きながら、自分が何をしているのか分からないでいるようだった。

元素子はどうしていいか分からず、スナフと一緒に後ずさった。


その時、元素子の耳に幼少時から嫌というほど聞き慣れた駆動音が唐突に鳴った。
よく知っていた駆動音だったから、元素子はとっさにスナフを抱えて渦流噴射で地表からジャンプした。

瓦礫の地表が波のように盛り上がり、幾つもの本物の「端末」が姿を現した。

そのカカシではない「端末」にキルスは突き飛ばされて、宙を舞った。
スナフは落下するキルスの姿を追い続けたが、見失ってしまった。


元素子の元に、ノイズ混じりの無線で、ドーム・コミュ前衛部隊隊長ガゼル・クランカランから本物の端末群が迫っていると知らされたのはその直後のことだった。

テーマ : 創作・オリジナル
ジャンル : アニメ・コミック

プロフィール

tobofu

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http://d.hatena.ne.jp/tobofu/
でアニメ感想系まがいのことをやっていますが、こちらはオリジナル創作漫画、小説の発表用のブログです(時間がないときや事情によってはアイデア、プロットレベルのものを提示するのみ、になってしまうかもしれません)。
その他総合的なプロフィールはhttp://www.geocities.jp/tobofu/
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